君はノリオン

 

冬の似合う君だったね。本当に冬の似合う。

冬の寒空の下でワカメの如く揺曳している君の輝きはまるでオリオン座のようであった。

オリオン座に少し、幾ばくかの、則夫、のエッセンスを追加したらばどうでしょう。するとほら、オリオンがノリオンだよ。

あの冬一緒に見たオリオン座と、そして君はノリオンだった。ノリオンそのものだったよ。

 

しかし君はノリオン。

ガチガチのノリオンでありながらノリオン扱いされることにあまりしっくりときていない様子であることを僕は、僕だけは解っていたさ。あの頃一番君を、ノリオンである君を近くで見ていたのは他ならぬこの僕であるのだからね。

そらもう君のことなど丸裸よ。明け透けよ。スケルトンボディよ。

 

「なんでオリオン座という美しき冬の星座に、わざわざ、則夫、のエッセンスをちょい足しするのか。味変みたいなことをするのか。つーか誰やねん則夫。それが解らないだし、ノリオンてもうほぼ則夫やないか。オリオンの成分弱まり過ぎているではないか。それをどう感じている?」

 

君が言いたかったことは大体上記のような内容であろう。マジな話、僕はそれを痛いほどに感じていた。本当に。心が痛かった。

君がノリオンであることによってこんな感じの感じを感じながら生きさらばえているのだと考えるたびに俺は胸が張り裂けそうになっていた。

そんな僕であるにも関わらず、何とか胸を張り裂けさせることもなく君のことをノリオンであると思い続けられたのは何故だろうか。

何が僕を、君はノリオン、と思わせ続けたのだろうか。今となってはそれらの心の繊細な部分は核の部分は記憶の坩堝にごちゃ混ぜになって混ぜり込まれて脳の堆積する塵糞になっているのみである。

 

脳の堆積する塵糞にアクセスして少しばかり当時の記憶を探ってみる。探ってみる、が。

なんでやろなあ。思い出せへんなあ。

思い出すのは君との楽しかった思い出だけやわ。

ほらノリオン、覚えているかい?

普段なら奥手な君が「今やったらいける!」とでも思ったのか「それはそのまんまでいいよ。そのまんま東!……ね。」と言って大勢の女子の前でゴリ滑りしてしまったことを。

あの時、ほぼ無視みたいな感じになってごめんね。君の友人であり常に一番身近に居てる僕にあって助け舟のひとつも出してやらないで、愛想笑いをするでもなくその場で揺れながら視線を泳がせていたあの感覚を今でも覚えている。鮮やかに。それほどに君はゲロ滑っていたし、もしもあの時列車の汽笛でも鳴ろうものなら僕は泣いていたかもしれない。

でも泣きたいのはノリオン、君の方だったのだろうけれど。そう、僕らはあの時泣きたかったんだ。

 

まあどちらかというと君の方がノリオン、泣きたかったことであろうけれど。まあそれは関係ないやん。