
僕らのクラブのリーダーは
シンガーシンガシンガーである。
シンガーシンガシンガーそのものである。
シンガーシンガシンガーとしての自分に対する自信がまあ段違いなのだから。それはもう気の毒なほどに。
僕らのクラブのリーダーは
シンガーシンガシンガーである。
ので歌うこと以外の音楽に対する知識が皆無である。
「倍テン」や「半分」等、パンクバンドでも使う程度の音楽用語を理解していないし、ピアノのことはピヤノと呼ぶんだ僕らのクラブのリーダー。
「ベースって何の意味があんの?」
これが僕らのクラブのリーダーの口癖だ。
僕らのクラブのリーダーは
シンガーシンガシンガーである。
その歌い方たるややはりシンガーシンガシンガーだけのことはあってガシンガシンと其処此処にエッヂの立った歌い方が特徴的だよ。
矩形波、的な?
そして頻繁に女子たちの近くで得意げにア・カペラを披露してクスクスと笑われているんだよ。
そのクスクスとした笑い声を照れ混じりの嬌声と捉えられるポジティヴさが僕らのクラブのリーダーをシンガーシンガシンガーたらしめている精神性であり自信の源であり、また哀しきところなのだけれども、おそらく僕らのクラブのリーダーはそれに一生気が付くことはないだろうから、それはそれでひとつの幸せのと言ってもいいのかもしれない。
僕らのクラブのリーダーは
シンガーシンガシンガーである。
ある日僕らのクラブのリーダーは僕らにこう言ったんだ。
「あのー、電車やらでスーツ着たええ歳のおっさんがやれ猫のストラップやらゆるキャラのキーホールダーやら付けとることあるやろ。
あれな、若い女子からヲ、カワイイトコロアルナ、と思われたくて付けとるだけやねん。1日に一回でも多くカワイイ、と思われたくて、いや、なんなら直接言われたくて付けとるだけやねん。スマホーの待ち受け画面もスイーツの写真とかにして。
もうあんなもん俺から言わしたらセクハラよね。おっさんのことをカワイイと褒めそやさなければいけないセクハラよ。
だから俺はああいったことは歳がいっても絶対にしないし、おまえらにもして欲しないな、と思ってるわ。思ってるということだけは伝えとくわ。」
僕らのクラブのリーダーは僕らのこと将来的なことを見据えたことをたまにこうして話してくれる。
それが僕らのクラブの血となり肉となってクラブの絆を強めているように僕は感じる。
僕らのクラブのリーダーは
僕らのクラブのリーダーである。