
喧嘩自慢に金持ち自慢、芸能人と知り合い自慢。色んな自慢があるけれど、オーラ自慢が一等困るよ。
「見て?どうなのこの私のオーラ。綺麗であったかくて、あったけぇよね…。やっぱさ、パワースポットとか行って良いオーラを吸収しているといやが上にも己からも良いオーラが出るようになるものなのかな?誇りだもんね、実際。」
そんなことを藪から棒に、そして初対面に言われても、僕は君がソッチ系の人だなんて知らないし、だからといってあからさまに小馬鹿にするわけにもいかぬし、だってソッチ系の、スピリチュアル入ってる系の人って怒らせると怖そうだし、呪われそうだし、そんな感じでドゥギマギしている僕で。君は小さな巾着袋から何かを取り出して。
「これ見て、ほら。石だよね。でもただの石じゃないの。言うなれば、私のこの素晴らしきオーラの源、源泉。源の源泉。なんちゃって(笑)まあこの石によって私のこのオーラは留まるところを知らない、マーベラスの暴走機関車、暴走半島の山中鹿之介となり得ているわけなんだね。この石がスゴいもん。なんせ。いい。いい石。源泉。」
有り体に申して面倒なことに、このパターンは「え?その石が?してその石はなに?特別の石?」ってな感じで此方から興味を持って君に尋ねなければ一向にその石が何なのか、なにがどうオーラの源の源泉なのか答えて呉れないパターンであり、つまり話が先に進まないパターンであり、しかし僕としてはその石にマジで興味がないので訊きたくもないのでありますが、目の前で知り合い女人が、はぁ~ん、ははぁ~ん、と大きなため息をついている場合、男は「どうしたの?なにか悩みなのかな?」と訊くのがマナーであり仮にこれをガン無視し放っておくと「アイツは女心のわからないし頼りがいがなくて足が臭い貧乏土人やわ」と女人たちのあいだで瞬く間に噂が広がりて、そのコミュニティ内では虫ケラ以下の存在と見なされてまさか太陽が捲れ上がろうとも恋愛対象として見られることは無い、てゆーか人間として見てもらえない、人権が無い、とさんざな非モテ人生になると相場が決まっているため、ここは自分を押し殺してでも君の持つその源の源泉の石とやらに対して質問をぶつけないといけないんだよね。
「え、その石が源の源泉なの?なんで?なにか由来のある石?」
とさも興味有り気に質問したが最後、やはり君は我が意を得たりみたいならツラをして嬉々として僕の質問に答えるんだ。
「え?この石?この石に興味持った感じ?お目が高いねえ。オメガだねしかし。してこの石はねえ、先生に譲っていただいた石なのだけれども、この石は先生が屋久島に行かれた時に屋久杉の気を込めた石だそうで、これを肌身離さず持っておくことで私は絶えずこの石経由で屋久杉の気を送られているし、それでこの素晴らしきオーラなのだけれども、それに加えてたとえば頭痛の時なんかには頭にこの石を当てがっておけばものの二、三時間で頭痛がすっきりなくなるし、冬は暖かく夏は涼しく、風呂トイレ別、オートロック付き、最上階角部屋、近所に蕎麦屋有り、みたいなものなのです。」
何をどうすれば屋久杉の気を石に込められるのか、一旦その先生とやらが屋久杉から気をもらって石にその気を込める形なのか、それとも屋久杉の周辺に半日程度晒しておけば気が込もるのか、その方法を掘り下げたい気持ちでいっぱいなのだけれど、こういったスピリチュアル系の人に気などに関するシステム的な疑問の説明を求めると顔面を真っ赤にして、信じない人に話す価値はない、とゴチゴチにキレられるかもしくは宇宙とかも登場しするような更に深淵なるスピリチュアルの世界に連れて行かれて帰宅が四時間から遅くなるというのが目に見えているため、ここはとりあえずアホヅラをしてやたらと石を褒めそやす他ないだろ。
するとどうだ。ひとくさり僕がその石を褒めると、君は得意げに、時に慈しみのある瞳で僕を見据え、石の更なる効能について話し始めたではないか。
「そそそ。つまりやっぱり屋久杉だけあってその気のパワーたるや人智を越えましたもので、稀に発光することもあるらしいし、変な話、今こうして私と話してるだけでもあなたも屋久杉の気をもらえてることになるからね(笑)。身体の疲れとかも取れてきてるんじゃない?水素とかも発生してるんじゃない?屋久杉の気のパワーによってオーラの色が安定してくるそうよ。先生なんてオーラの色が濃すぎて実体がうっすらとしか見えないらしいもの。私はまだオーラが見えないからわからないけれども。」
私は"まだ"オーラが見えない、と申されているあたり、いずれはオーラが見えるようになるとでも先生とやらに吹き込まれているに違いない。
しかもその先生とやらのオーラは濃すぎて先生の実体がうっすらとしか見えないって、それオーラが見えるようになったら日常生活に支障があるのでは。夜に車を運転している時に前にオーラが濃すぎる先生の如くな人が前を歩いていたら見えなくて轢いてしまうのでは。
別れ際、君は今日見せる一番の笑顔でこう言った。
「茨城で産まれてから46年、私の今までの人生は茨の道そのものであった。茨城と茨の道で、茨が被ってもうてるけど、それはもう仕方ないよね。でも先生と出会えて、石ももらえて、今が一番の幸せの日々。こんな日々が続かばよいのになと心の気持ちで思う。恋人がいた時ないから次は恋人が欲しいなと思っている。」
その笑顔が少し淋しげな気がして。僕は何も言えなくなってしまった。
てゆーか、初対面の君に僕が言えることなんてまず無いのだけれどもね。