
今宵もかしましいのが集まって来やがった。彼方でかしまし、此方でかしまし。
逃げられないぜ。ピーチクパーティーの始まりだ。
誰かが大きく「ピー」と言う。
そしたら皆んなが「チク」と言う。
誰かがそっと「パー」と言う。
有志のアイツが「チク」と言う。
繰り返される「ピー」「チク」「パー」「チク」のやり取りに、かしましいののヴォルテージも否が応でもアガりだす。
「ノッて行こうぜ!なぁ!」
不謹慎かもしれないが、これが俺たちのいつものやり方で、アガり方なのだからしょうがないよな。俺たちはこれでやってきたし、これしか知らないんだ。これしか出来ない俺たちなんだ。
「まだ行けるぜなぁ!なぁ!」
城の方向から誰かが叫んだ。その咆哮に応えて数人の益荒男たちが「こんにちは~」の挨拶で応える。片言混じりなところを聴くと、今宵はどうやら米兵さんもこのピーチクパーティーに参加しているらしい。やる度に規模が大きくなっているこのピーチクパーティーのこと、いずれは南蛮渡来の者どもの参加も予想はしていたが、思いの外早めの時期の参加に俺たちは「参ったなぁ。参ったよなぁ」なんて口では言ってるが、本当は嬉しい心の気持ちでいっぱいなのだが、恥ずかしくって誰もそれを言えない感じ。
「今日は綺麗どころも揃っているでやんすねぇ!」
点字ブロックの上で誰かが叫んだ。語尾に"やんす"を付けて話しているところを聴くに、おそらく"十四丁目の勘違い野郎"こと玉如来であろう。
先に断っておくが、このピーチクパーティーは断固として不純異性交遊のキッカケの場ではない。そういった目的でピーチクパーティーに参加した者はすぐさ係の者に通報されて捕らえられ、心に一生消えない傷を負わされた後に街へ放り出さるることとなる。玉如来ももう随分と係の者から警告を受けているハズである。せいぜい今日が奴の最後(最期?)のピーチクパーティーにならぬように祈りでも捧げてやるとしよう。
「今日は綺麗どころの揃っていることはもちろんでやんすが、そんなことはまぁ単なるひとつのファクターとして純粋にこのピーチクパーティーを楽しんでいるこの玉如来でやんす~。」
誰か周囲の者に注意でもされたのか、玉如来が先ほどの自らの発言に対してフォローを入れてきた。こういうすぐに素直に訂正するところが玉如来の憎めないところで、そしてこのピーチクパーティーに欠かせぬムードメーカーとなっている所以であろうよ。
玉如来じゃないが、誰だって失敗はするんだよ。それは大きい失敗も小さい失敗も、みんないくつも失敗してきて今の自分があるんだ。それを忘れて失敗した者に対して偉そうにしちゃいけないんだ。
しかしまぁ、今宵のかしましいのはこれまた随分とかしましいのが集まったもんだな。これはもうかしましいを乗り越えてかまびすしいと言った方が適切かも分からないな。
今宵の俺たちはかまびすしいのだなぁ!
そんなことを感じていると、茣蓙を敷いてある汚いスペースに座っていたのが一人、傲然と立ち上がりて集まったかまびすしいのに号令的な言葉をかけた。
「みんなよぉ、今宵はこれ、もう俺たちはかしましいのを踏ん反り越えて、もはや、かまびすしいの、と言った方が適切なようにも感じるよなぁ!
地域でも名うてのかしましいのが集まってんだ、そりゃあかしましいのが集まりゃあかまびすしいことになるだろうよ。でもお前らはあれだろ?かしましいのだのかまびすしいのだの、そんなものはどっちでも良いんだろ?みんなで集まって踏ん反り越えて、その先っちょにある更なるピーチクパーティー目指してんだろ?それが素晴らしいじゃねぇか!
今宵はもっとピーチクパーティーしようぜ!なぁ!田辺もなぁ!なあっ!あれぇ?田辺ぇ?」
その時だった。鍋敷きの上に置かれた灰色の連絡用スピーカーから放送が入ったのは。
放送によると田辺は、綺麗どころの揃った今宵のピーチクパーティーにおいて明らかに尋常よりカッコをつけていたらしく、いつもであれば振られれば絶対にやる爆笑一発ギャグもやらなかったらしく、その行動の端々から滲み出るモテたいオーラを敏感に感じ取られそれを不審に思った参加者によって係の者へ通報されて捕らえられ、今まさに心に一生消えない傷を残されているところらしかった。
俺はこの一件でついさっきまで仲良くかまびすしくしていたにも関わらずちょっとカッコをつけただけで通報するという、実は超ドライなピーチクパーティーの厳しさを改めて感じたよ。
払暁の空に、田辺の甲高い悲鳴が聞こえた気がした。