
どんなに可愛いらしき者に対しても、だからといって"プリティ"という愛称はやめておいた方がいいという理由に、真剣な話や説教をしている時にいまいち効きが悪くなるから、ということが挙げられます。
「よっしゃ、ここが正念場やどプリティ!」
「何回言うたらわかるんじゃプリティ!」
「何がプリティやねん実際の話!」
これはやはり「プリ」の部分がお尻プリプリ~や、プリン等の柔らかくて微笑ましい感じを想起させてしまうのがよろしくないということがあり、続いて「ティ」の部分がパンティやスキャンティ、シミーズといった女性用のパステルな可愛らしき召しものの類を連想させ、この「プリ」と「ティ」を合体させるとほら「プリティ」。柔らかく微笑ましくて、それでいて優しくパステル系の感じの、ということでどうしても真剣な話や説教の場にはそぐわないということなのですね。
かくいう私の友人にも御多分に漏れずプリティなるあだ名を拝するゴキゲンボイの者が存在致しておまして、其奴ことプリティはなるほど確かに男性にしては全体的に小さくちょこなっとまとまっており、しかし目はパッチリとしていて睫毛はファサ、ちょこちょこと小動物のような忙しない仕草をしたかと思えば上目遣いで此方を覗き込み首を傾げてはまた好物の落花生の皮をパリパリ剥いてポリポリ食べて、好物の落花生を手から落としてビックリすれば「ぷひっ」と小さく屁をこき、それを恥ずかしがって舌を出す様子等を見ていると何かチンチラの如くなプリティさが伝わってきて思わずプリティというあだ名を付けたくなる気持ちも分からぬではないな、というか此奴にプリティというあだ名を付けたのは何を隠そうこの俺なのだけれども此奴ほどプリティというあだ名が相応しい者もなかなかおらぬのでもし俺がプリティと名付けなくとも第二第三の俺が必ずや此奴のことをプリティと呼びそやしていたであろうことはまず間違いなしなのであるが、問題はそんなプリティも含めての僕らの恒例の真剣な大会議をする時と場合である。
前述のとおり真剣な話の場においてプリティというあだ名は雰囲気にそぐわないし、場合によってはふざけているとすら取られかねない。これは真剣な話には誰よりも真剣に臨むプリティにとっては大いなる損失である。
例えば前回の全開の僕らの大会議の議題は「何故に他人のモノを勝手に食べてはいけないのか」という議題であったが、その際もやはりプリティのプリティというあだ名が仇となった瞬間があった。
「それでは只今より、第約三千億5200万回目の僕らの大会議を始めます。始めたいと思います。おしっこの方大丈夫でしょうか。おしっこない?大丈夫?じゃあ始めなす。今回の議題はかねてより理解に苦しむのでヤバいと言われていた、"何故に他人のモノを勝手に食べてはいけないのか"という議題からスタートしたいと思います。なにか良い案はございますでしょうか。おっ、早っ。はいじゃあプリティ。」
「僕は他人のモノを勝手に食べるのは他人が楽しみにしていたモノを食べることになるのがダメだと思います。僕も好物の落花生を他人に勝手に食べられたらイヤだからです。だから他人のモノを勝手に食べるのはダメだと思いました。以上です。」
「なるほどなプリティ、良い案だ。誰かプリティよりももっとマシな案を出せる者はあるか。マシな案で良いぞ、プリティよりも。あるか。あるなら神妙にしやがれ。おっ、じゃあそこの、左から1、2…600番目の人、言いなさい。」
「私は他人のモノを勝手に食べることのみでこのように大きく逞しく育ち上がりました。それが非常に嬉しかったんです。だから他人のモノは勝手に食べてもいい、というかこの世の全ては地球から与えられた共有財産なので自分のモノとか他人のモノとか、そんなのは我々人間が勝手に決めただけで、それこそプリティは落花生こそが我がモノなり、みたいな放言を嬉々として申しておりましたが、私から言わせればプリティの落花生なんて常に勝手に食べていますし、そして美味しいですし、そしてこんなに真剣な僕らの大会議の場においてプリティなんていうあだ名の者が何を偉そうに発言しているのでしょう。キュートならまだしもプリティとは。しかも男児なのにね。そっちの方が他人のモノを勝手に食べるよりもよっぽどダメだなあと思います。以上です。僕はこれからも他人のモノを勝手に食べますし、プリティの落花生に関してはただの一粒もプリティには食べさせない勢いで勝手に食べたいと思います。以上です。」
「なるほど、確かに俺もこの真剣な僕らの大会議の場においてプリティという単語がプリティプリティと何度も口酸っぱく飛び交うことについてちょっとヤバいかなと常から思っていた。思っていたけど言わなかった。何がおもろいねんと思っていた。プリティはそのことについてどう考えている。」
「どう考えていると言われても、僕は自ら「プリティと呼んで親しんで下さい」と言い出したワケではなく、僕のことを見て皆がプリティと呼び始めたのみで、それを棚に上げて僕が居ると僕らの大会議での真剣な空気に水を差すみたいな言い方をされては僕ももう立つ瀬が無いです。僕はこの僕らの大会議に誰よりも真面目に取り組んでいると言うのに、他の皆は終わった後の飲み会の河岸を何処にしようかということくらいしか考えていないというのに。それでも僕が居ると真剣な空気が台無しになるというのなら、僕なんか呼ばなければいいじゃないですか!」
そう叫んでプリティは力んでしまったのか、「ぷひっ」と小さく屁をこいて頰を少しく赤らめた。
やはりこういうところがプリティのプリティたる所以であろう。まあ、名付けたのは俺なのだか。