じゃあ俺たちが悪いよ

 

とりあえず一旦、世界中の人々がみな自分の友達であり幼馴染でありソウルメイトでありみなが私の掛け替えのない、と考えて、それはこれまで一度も会ったことがなくとも言葉が通じなくとも倫理観に著しいズレがあるとも関係無しにみな一様に、と考えて、そこから申し訳ないがどうしても友達と考えることが出来ない、という者を、どうしても一人のお婆ちゃんとしてしか考えられない、という者を一人一人断腸の思いでこの全世界トモダチ作戦(今、名付けたり)から容赦なく除外していって、それは何かこう、例えば敵兵士が此方兵士の弾の雨を思う存分喰らい、もう息も絶え絶えな感じで、ちょっと助かる見込みは無さそうっすね、まあこのまま放っておいても精々あと5分くらいで失血死するであろうという状況で敵兵士が「うぅ…あぁーゔ……。」と言葉にならぬ呻きのような声を発しつ苦しがっているとして、ならばいっそ、いくら敵兵士とはいえ、相対する立場であったこの出会いとはいえ、あと5分もすれば死ぬとはいえ、一思いにバンと殺ってやるのが人の道。苦痛の時間を長引かせてちょっと此方も引く感じになるくらいなら一思いに殺してやろう、という人間味のある菩薩の優しさと同じような感じでこの全世界トモダチ作戦(先刻、名付けたり)に於いてもどう考えても友達とは言えぬ者を一思いに殺して、いや殺さなくて良い、一思いに全世界トモダチ作戦から除外していこうと思いてそんな者の数々を独自の目線でバッホバッホと切り捨てていったるねん。ワテ、やったんねん。

 

といった感じでせっかく事実上友達になった全世界の人々を一人一人吟味して体感的には一千年の時間をかけて君は友達、君は友達じゃない、と選別を繰り返していくととある真実に行き着いたのですがなんとその真実とは私には自信を持って友達と呼べる人物が一人も居ないという真実で、その真実が鎌首をもっさりと持ち上げて私の眼前に屹立キツリッツしたのではございませんか。

いや、厳密に言うと友達が一人も居ないなどということは無く本当は私の優しい気持ちが心の中で煮こごりのように固まりてもうほぼ私の中では実在の人物として定着していっている感のある、しかし架空の友達フレンドである江南ともゆき君という友達が一人居るので現実的に言うと友達が一人だけ居るという状況ですし、例えば私があらぬ疑い、他人の物を勝手に食べたという疑いをかけられているとして、私は人の道として他人の物を勝手に食べることだけはしないとあの日の夜空に誓っているので私は絶対に他人の物を勝手に食べないのですが、しかし疑念を抱きし者曰く私がどう考えても怪しいと。何故なら何を隠そう私の口癖は「私は他人の物を勝手に食べることよ。」という物で、即ち日常的に他人の物を勝手に食べるという宣言をしているから怪しい、と申すのであるがいや、それは私の口癖で、会話に一輪の花を添えるためのウィットに富んだカタパルトのようなもので実際に他人の物を勝手に食べることだけはやっていない。何故ならあの日の夜空に誓ったのだから。とひとしきり説明したところ、食べた食べてないは別としてそんなややこしい口癖を日頃から嘯いていれば、今回のようにあらぬ疑いをかけらるることもあるだろう。今回疑われたのも最早当然の理と言える、ってな感じで身も蓋もチンコも無いような鬼のようなことを言われたものですから、これには流石の私も柄にも無く逆ギレなんてしてしまいましてその時言ったのが、

「だったら俺たちが悪いよ!」 

という一言でして、本来ならば私一人にかけられた疑いである故、詰問されているのも私一人でありますから、

「だったら俺が悪いよ!」

と逆ギレするのが当然の道理でありますが、私の口を突いたのは「俺たち」という言葉でした。

これはどういうことでしょう。私一人が詰問されているにも関わらず「俺たち」と思わず言ってしまったことの理由とは。

 

それはもちろん私の心の中にのみ居る友達、江南ともゆき君も頭数に入れたからなんです。以上のことから分かるとおり私には友達が、江南ともゆき君という友達が一人居るので、私のフレンドの総数は一人、となった次第なんです。