惚れられては困るが

 

わかる。理解できる。たしかにこんなにもカッコいいポーズを取って人混みに突き立つ俺には当たり前のように目線がキてしまうものなあ。

別に大してアピールのつもりとか、セックスアピールのつもりとかは全然無いとはいえ、やはり目立つには目立つなりの理由があるというか、それが俺にとってはこのカッコいいポーズで、いや、ポーズ以前に持って生まれた容貌の良さもあるという事実はこれは言わずもがなであるが、そんな様々なファクターが重なり合って紡ぎあって、そしてこのように闇雲に目立つ俺が此処に爆誕しているというのは何とも皮肉な話で、ならばこの三角形、人の世の三角形を存分に意識したこのポーズを決めるをやめ、自由闊達に飛びまわる蝶が如くヒラヒラと天下の往来を闊歩してみてはどうだろう。

いや、それも駄目だろう。私という人間が自由闊達に闊歩すればそれこそこのゴミ屑同然の街、そして人混みの中に一輪の曼珠沙華が咲くようなもの。またしてもこの貧乏人の小倅は市井の人々の関心を集め、ルリルリとしたその活動のひとつひとつを仔細に観察され、私専用のハッシュタグなんかも爆誕してひとつのムーヴメントとなることなど目に見えている。

どうすれば少しは人々からの注目を避けらるるよな振る舞い、所作が出来るようになるのだろう。或いは、持って生まれた華がそれを不可能にしてしまっているのやもしれぬ。

 

たとえば私が職業として探偵業を営むなんてことは道端にぶちまけられたモイスチャーミルクに足を取られて滑って転んだ勢いでウランバートルまで行ってしまうくらいおよそ実現不可能な私の儚い夢であろう。

何しろ探偵といふものは目立ってはならぬ。目立たぬように可能なかぎり隠密に行動してクライアントからのしょうもない依頼を完遂せんければならぬものであるが、私の場合この持って産まれたマーベラス感が町行くピープルから完全に浮いてしまい、そして私自身も浮き足立っていますからターゲットも薮から棒に

「あれ?今日の俺は何かエクセレントな者に後を付けられている気配のする。今日のところは秘密のランデヴーはこれを中止とした方が良い。では早速不倫相手にその旨を連絡の後、最近注目の猫カフェにでも行ってお茶を濁すとすらぁよ。」

と勘付かれ、尾行もへったくれもヘテロもあったものではない。

そうなると調査料金をいただけぬようになるし、ということは私は飯の種が消え失せ餓死してしまうこととなる。

こんなゴージャスな私のような者がこの現代社会にあって餓死などという壮絶なバイブの死に方をすることは、果たしてマルなのであろうか。否、バツである。

 

ならばこのまるでひとつの芸術作品のような容貌を活かしてスターとして活動していくのが得策というもの。

スターになればこの持って生まれた華も存分に有効活用出来るであろうし、最終激辛宣言宍戸ウルフのCMとかに出演した暁には宍戸ウルフも鬼売れ、店頭在庫ゼロ、人々はみな宍戸ウルフを求めて略奪の限りを尽くし、一部の金持ちがオイルマネーでモンキービジネス。世界は再び原初の雰囲気に満たされ、背な毛が思いの外発達してゆくという負の連鎖が起こる。

あかんやん。誰も幸せになってないやん。

スターとして生きていくことも諦めればならぬとなるといよいよ何をすれば良いのか悩みける。

 

しかしそんな些末なことにこだわっていつまでもクヨクヨしていては折角のこの持って生まれた華が台無しに臥してしまうので心の気持ちを明るく保って、タモツの如きフリーダムなこんころもちで生きて行かねばな。

しかしだからといってむやみやたらと惚れられては困るということも、ここに記しておかねばな。惚れるのは勝手といえば勝手であるが、いちいち告白されたり振ったりしていることでは、いつまで経っても心の気持ちが浮つき安寧せぬまま。

 

だからこれからも引き続き、あまり惚れられることのないように気をつけるのみ。