ダブルトーク

 

誰かと話したくて、しかしひとりの夜で、でもひとりでは処理できぬこの孤独というぱらやかな地獄から抜け出すためにはどうしても誰かと話すしかなくて、「それでは歌っていただきましょう。キモ三角さんで"ニオイヶ浜"。」てな感じで紹介しても今をときめくシンガーが登場するわけもなく、ということはシング後のトークタイムも発生しないというわけで、いやいや、それがトークタイムが無いんならわざわざこんな俺の部屋みたいなしょうもない場所には来なかったのにってそれが余計に孤独を増長させてあの泣く寸前やケンカする寸前の鼻の奥がツーンツーとするやつになりてこれでいよいよ感情の昂りをいやが上にも感じざるを得ず、そうなったらもう奥の手を出すしかない。

 

それはそう、奥の手というだけあってこれはウルトラマンでいうところのスペシウム光線、仮面ライダーでいうところのライダーキック、ウルトラセブンでいうところのアイスラッガーと同等の力を発揮する、地球の平和を守るため、俺の精神的な安寧を得るためのステキなみよしの自己分配でありまた、心の気持ちは安寧を得るための一種のみよしの自己陶酔ともいえるのかどうかでそこはアイドンノー、愛  don't know。

 

さてその奥の手必殺リーサルウェポンとは如何なるサムシングかと申すと、それは自分で自分と話す、自分が自分の話し相手へと成り上がるという究極のミニマル・レヴォ龍tionなのであります。めくるめく世界の入り口へようこそ。

 

その奥の手、名をダブルトーク。

 

たとえばひとりぽっちでの従来通り、

「それでは歌っていただきましょう。キモ三角さんで"ニオイヶ浜"。」

なんて吐かしたところで一体誰がお前みたいなもんの叫びに耳を傾けてくれるというのでしょうか。

答えはゼロです。しかし気に病むことなどなく、それが実は孤独という化け物の本質だったりする気持ちでありますからマジで気に病むことなくいつもどおり嗚呼、幕末に生まれたかったわ、とか考えつ過ごして下すったら良いのですが、ダブルトークを使うことであなたの叫びに耳を傾けて、しかも真摯に答えてくれるというではありませんか!

誰が?あなたが。

 

「それでは歌っていただきましょう。キモ三角さんで"ニオイヶ浜"。」

「歌は世につれ世は歌につれ、かわいい顔のオジさんはだいたいそのままかわいい顔のおじいちゃんになる。そんな移ろい行くシーズンの泣ける感じをアピールしたくて作りた曲でございます。聴いてください、"ニオイヶ浜"。」

「さて、今夜のお小水ヒットパレードのトップを飾っていただくのは最近巷でスッピンがゴリゴリのブスであると話題のキモ三角さんによる尋常ではない歌謡曲であります、"ニオイヶ浜"でございます。それではお楽しみ下さい、キモ三角さんで"ニオイヶ浜"。」

「はい、ただ今ご紹介にあずかりました、男のクセに化粧をしていることで有名なトップランカーことキモ三角に御座います。今回のこの曲は四季なんてクソ喰らえ、ずっと夏であれ。といったメッセージを込めに込めた珠玉のダンスナンバーに仕上がっております。仕上げさせられております。リスナーさんの心に一服のディスコを。それでは聴いて下さい、"ニオイヶ浜"。」

「ということで、ひとりひとつと釘を刺されている差し入れの豚まんを割と平気な顔をしてふたつ食べる卑しき男(しかも、ひとりひとつだよ、と指摘されても「僕は豚まんは食べない。食べる理由がない。」と意味不明なシラを切る本物の卑属)キモ三角さんが今宵のトップブリーダーなのです。それでは全く聴く価値の無い曲で、"ニオイヶ浜"。」

「どうも、腹が減っては戦はできぬ。ゆえに豚まんも人より食べる。そんな憂国の革命戦士キモ三角です。この曲は僕がスラムでカツアゲと窃盗を繰り返していた荒れ狂う少年時代のことを思い出して書いた曲で、まさに若者の報われない青春時代を描いたフォトグラフのような曲なんです。そう思っていました。それを良く理解して聴いて欲しいです。しかし、こんなしょうもない音楽番組なので出来るだけ手を抜いて歌います。聴いて下さい、"ニオイヶ浜"。」

「さあ、そんなハッタリしか取り柄のないキモ三角さんに……。」

「そんな夢のある嘘をリスナーさんに提供したくてシンガーやってます……。」

以下、孤独の果てまで、神も見捨てるやり取りの続く。

 

こんな感じでダブルトークを繰り広げてみればどうでしょう。思いやりのある優しき人にダブルトークを止めてもらえるまでダブルトークを繰り広げれば、あなたはもう孤独ではありません。

なんなら自分、自分、思いやりのある優しき人、の計三人からその場に存在することとなり、むしろ賑やかな方と言って良いでしょう。しかもダブルトークは、ダブル、とは言うものの、別に自分、自分、自分、と自分三人で進めても良いわけですから、誰に文句を言われる筋合いもへったくれも無いわけですから、がんばれば自分一人で友達百万人も決して夢物語では無いということがあからさまであります。

こうしてダブルトークで増えた友達はかけがえのない友達で、ケンカしたり笑いあったりして様々な思い出を共有することでもう孤独だったあの頃の私とはサヨナラを出来てしまうのですね。それが一番歓びのことであると私は感じます。信じます。

 

それでは歌っていただきましょう。シンガーのキモ三角さんで、"ニオイヶ浜"。