お前だけは絶対に(或いは、鼻のように)

 

可憐で瀟洒で洒脱で軽快で、そんなまるで野に咲く一輪の花のような、コンクリートの上の大蛇のような存在感を得られていけば、私の心はスルルと晴れて、雲の間に々々シルエットを覗かせるジェットの、そのエンジンの音を響き晒して前代未聞の、キョンシー界初のスーパー発光ダイオードになる予定をしていたというのに。それだけは俺にとって成れるものの筆頭候補として挙げられていたというし、それは誰が挙げていたのかと言われれば、筆頭候補として挙げられていたというのが丸ごと嘘であることを告白することになりかねない、時は金なり基礎は鉄なりと言っては哭いておられます。俺が。

 

今世紀最後の益荒男、戦後最大のいごっそう、狼と踊れるオカマとして名高い私のその小さな小さな夢をぶっち壊したのは一体どこのポップス野郎なのでございましょうや。

明け方、道端で大泣きしているヤンキー娘をガン無視してまで掴みたかった夢の残尿を、手を伸ばせば届きそうであった幻の箒星を、それをぶっち壊したのは一体どこのプッチモニ。風情でございましょうや。

 

今となっては判じようのないこの事実で御座いますが、もしいつか、万感の罪の意識でもってこの私めに「あの時は手を伸ばせば届きそうであった君の夢の尻尾を、ノリでぶっち壊してのことをごめんなさい。やってしまったことなので後悔こそしておりませぬが、なんか昨日夢に白い大蛇が悄然と現りて大蛇曰く、どうでもいいような胸の蟠りを取り除くことでそれなりのお金が手に入る、みたいなことを言われて、それとは全然関係ないのだけれどあの時のことを謝りのこととして、そのことをごめんなさい。」と言ってきたとしてどうだろう。

 

私は、誰かの犯した罪を赦せるのであろうか。

 

正直申してスッと赦せるということはないと思う。一寸の虫にも五分の魂と申す。私は嘗て魂を傷つけられたっぽいのであるから、今更謝られたとて答えは一つの。

 

「お前だけは絶対に。」

 

に尽きるの。つーかマジで。と付け足しても良いであろう。真顔で、しかし紅潮していて。

私は怒り狂いて貴様、無疵で立ちて居られるのことを私の優しきと思い知れ。

でも俺もまだまだ子供であるな、とは思う。それはなぜなら、完璧に謝罪モードの相手に対して赦しの心を持てぬし、そして此奴の犯した罪は俺の魂に傷を付ける行為であったためになんなら此奴にも同様の苦しきを味わわせてやらうかとぞ思う。それが憎しみの連鎖となりて俺と此奴の一族郎党が差し違えることにでもなったら…。

 

人を呪わば穴二つ。

人を呪った際に出来る、急遽掘られるというその穴とは、鼻のような雰囲気であるという。対を成す感じの穴、鼻のような。

そのふたつの穴から俺が二人、つまり各穴から一人ずつ、穢れた罪人を、また、薄汚れた浮世を睨め付けているとのこと。

 

「私は今まで自分を押し殺して大抵の遭難に対して、自分のせいだ、自分が悪いんだ、と自分を押し殺して平謝りを続ける日々で御座いましたら、周りも調子づいてきてもはや関係の無い者までが何であろうと私の責任にしておけば、みたいな考えを腹に宿して私に近づいてくる始末。若槻千夏の写真集を自分で持っておくのが恥ずいからと私の家に置いて帰る始末。

今まではそれらを看過し、私には少々他人に対して甘すぎるところがあるよ、と持ち前の優しさを発揮していると見せかけ、その実、単純にいい顔をしておけば他人に無闇に嫌われることもないだろう、という計算、処世術的な考えもあってアレしてきた謂わゆるやんごとなきおっことぬしのような小さき存在でありました。

しかし、お前だけは絶対に。」

 

人を呪った穴から覗く二人の私の顔面は、片方は顔全体が異常に紅潮しており、針で突けば爆散しそうな怒りのエナジーに満ち満ちた表情をしており、もう片方は青ざめて、空気が抜けたようにショボくれた今にも泣き出しそうなテン下げ丸出しの表情です。

 

二人が流す汗と涙は、それがそのまま鼻水となって大地を潤し、ちょこんとした芽が出たその日に、私は天に還りましょう。