国公立トー大

 

週末のここら辺はさすがは繁華街だけあって週末らしく賑々しく、私は人波の寄せては返すハイテンションの波に揉まれながら鬱陶しくもなんだか、しょうがねえなあ、みたいな兄貴的な気分になりながらさっきまで酒の席を共にしていた学生時代の旧い友人の新婚話なんかを思い出して頰を緩ませつつ一人駅への道を歩いていた。

そんな折、明らかに泥酔しているであろう男性の怒鳴り声がどこからともなく聞こえてきた。

 

「俺はトー大なんだぞ!トー大!国公立だぞ!ふざけんな!」

 

何があってそんなに怒鳴っているのかは分からないが、何があったにせよ何かがある状況で出身大学を述べたところで状況に何の変化も期待出来ないということが理解出来ていない時点で知識はあっても知恵のない開業医の箱入りボックス息子的な、野生を欠いた人物であるということが分かる。

久々に阿保を見物したい気分になってきたのでその怒鳴り声のする方へ踵をボインっとして向かってみることにした。

 

「トー大!うん、そうそう。それは別府には俺から言うとくわな。大丈夫、うん。はい。だからトー大!国公立のトー大!別に賢いアッピールで言うとるのと違うよ!別にお前らに俺の賢さを分かられたところで俺には何の得もないからね(笑)。ないから!それは別府もおんなじこと言うと思うわ。てゆーか知ってるトー大?国公立トータル大学のことを。」

 

ハタとした。ハッタッタともした。一般に文字情報無しで「とーだい」とだけ聞くと誰もがあの最高学府のことを思い浮かべる筈である。私の出身大学でもある、あの最高学府を(大嘘)。

しかし怒鳴り声の男性が今しがた怒鳴った大学名は?

 

国公立トータル大学。

 

懐かしき、我が母校の名ではないか。

私はとある理由で母校の名を聞くと涙で便器が見えなくなってウンコに失敗する為(漏れなく漏らしてしまう)、なるべく母校のことは思い出さずに生活を送ることにしている。それほどに私が愛した母校、国公立トータル大学。

トータル大学は厳密に言うと私立大学であるが、理事長?かなんかの偉い人が「国公立って付けたほうが賢いっぽくない?」という鶴の一声を放った結果今の大学名に落ち着いたそうだ。

つまり「私立  国公立トータル大学」が正確な大学名となるのであるが、だいたい国公立ってなんのことかトー大の教授も生徒も、誰も、私もあんまりよくわかってないのでどうでもいいのである。

 

「この、ウチに通ってくれる学生諸君にはね、より総合的な学力をつけてほしいなと思っていて。即ち、トータル的な学力ね。それでトータル大学と言っている訳なんでね。姉妹校としてもう一校あるんですけど、あそこはトータル的にというよりは、専門的な学力に力を注いでいるんで大学名はノン・トータル大学、通称ノン大なんですけどそっちも再来年にはトータル的な方向にシフトさせて両トータル大学みたいにしようかなと目論んでまして、正直な話それがどうしたんやと言われればそれまでなんですけど、とにかく学生諸君にはよりトータル的な、人間的にもトータルに成長して欲しいなという想いがアホほど有るということだけ分かっておいてもらえればこれはもう御の字ですわ。」

 

新品の革靴を履いて正門をくぐった日のことをまるで昨日のことのように思い出す。あの日は靴擦れが酷くて歩き方が羊みたいになったんだよなあ。

私が4年間所属していた"サークル・オブ・ワンダーフォーゲル"という名のワンダーフォーゲルサークルの仲間とは今でも年一回は集まって近況報告と言う名の飲み会(笑)を開催している。サークルのマドンナでありサブリーダーで、メンバーに的確な指示からプライベートな指示までありとあらゆる指示を飛ばしまくっていた指示子は結婚してもう二児の母だ。旦那さんの姓が「指原」であるので指示子は現在"指原指示子"という名前で人生を送っていることになる。

まあそれがどうしたと言われればそれまでであるが、4年間のトー大での学生生活の中で唯一本気で恋をした相手の話ぐらい、少しはさせてくれな。

 

男はいつでも、「もしや、あの子は未だ自分のことが好きなのでは」と有りもしない幻想に囚われて生きている。私もその一人だ。

トー大を卒業してから随分と月日は流れてしまったが、私は未だ独身で、そして未だ、指示子が来るのを待ってる。

 

あの子が得意だったホッピングを両手に抱えて、待っている。