タイタン

 

ちょっとした小洒落た、店員さんが簡易の着物みたいなんを着たある(着てる)居酒屋で小洒落た料理に小洒落たお酒、小洒落たほろ酔いで小洒落たトークを楽しみ、いや愉しみ、小洒落たメニュー表に小洒落書かれている料理名を眺め、小洒落たトークを愉しみつつ鋼の心を養っている常在戦場の私であるが、そのメニュー表に書かれている或る料理名を見た瞬間に私の心の中に住む征夷大将軍が大騒ぎをし始めたというのはなぜならメニュー表の煮炊き物のコーナーに書かれているある料理名に対して私の心の中に住むファラオがトコトコと走り回ったからである。

常に冷静に天下を睥睨し、どんなにファンでもフラゲ日には買わない事にしているそんな冷静に冷静を重ねた冷静の冷製ミルフィーユみたいなこんな冷静な私の心の中に住むファラオがトコトコと走り回り、それを捕まえようと私の心の中に住む征夷大将軍が東奔西走するような事態に陥れる程の料理名とは…。

正直に言います。貴方に恥じることのないように。その料理名とは、"おかぶのたいたん"。

 

たいたん?たいたゆ?たいたん、と言うのは京の都のことばで「炊いたやつ」という意味である。「炊いたもの」でも、「炊きましたもの」でも、「炊き誇りたもの」でもない。たいたん、は「炊いたやつ」、オカンに晩飯のおかずを聞けば「あぁん?カブトムシの炊いたんや。文句あるんかいワレ。」と放り投げるように答えられるのが、たいたん、たのである。つまり、家の中で使うことばであるということを分かって欲しいワケやね。

だのでこんな小洒落た小料理屋で、たいたん、を料理名として使用するのは如何なものかと。

 

 

わかるよ。たいたん、という家の中でドメスティックに使うことばを使うことによってこの小洒落た小料理屋に一陣のアットホームな風が吹き抜け、今は遠い郷里のことを想って、謂わゆる望郷やね、そんな感情をお客さんに想起させ、ここはお前の実家やと思って存分にお寛ぎくださいあそばせまし、というメッセージを込めているということくらいわかるよ。でもそこで私が違和感を感じるのは此処が京の都の料理を扱っていない、てゆーか店名からして「ザッツタイ タイ料理店ほとんどバンコク」である時点で万に一つも京の都とは関係のないことがわかるし、店長の名前はフーラポームラクだし、店員が着物を着用しているのはあくまで店長の趣味だということで、あ、おめでとう(^^)って。