西のキャバ嬢が死んだ

 

ブスにアヒル口で迎え入れられる形になったのでもう帰りたくて此処はキャバクラ。此処では酒を頼めばブスが水割りを作ってくれ、タバコを咥えればブスが火を点けてくれ、しかもそのブスは入れ替わり立ち替わり、まるでブスのメリーゴーランドであり、銭の坩堝であり、心のオアシスであり、我利我利亡者の賽の河原であり、心のオアシスであり、酒呑童子の向こう三軒両隣であり、心のオアシスであり、ほたらなんでかかる処、無間地獄でオアシスに俺という聖なる者、敬われるべくして敬われている者が足を運び、あまつさえ酒を呑みてナッツを摘みて向かいに座る先輩、テントウムシみたいなブスの肩に手を回しつつ上機嫌で「タイのゴーゴーバーで7人もの女性を連れ帰ったことがあり、私はそこで現世酒池肉林を経験し大満足の末に涅槃に至った」みたいな面白くもなんともない下世話でチンチン中心の先輩のお話を聞いているのかというと、先輩に此処キャバクラに連れて来られたからである。

テントウムシのブスは言った。

 

「ゔぁんゔぁん(笑い声です)!ゔぁんゔぁん(笑い声です)!7人も!つーことはお兄さんを入れて8人!野球ティームを作れるのね(作れません)!野球ティーム作れば?ティーム名は"読売絶倫ジャイアンツ"なんてどう(ちょっと面白い)?ゔぁんゔぁん!ゔぁっ…(目を見開いてしばしフリーズする)……(少しく心配になってくる)………ゔぁんゔぁん!ゔぁんゔぁん!やべっ!なんか今一瞬だけ死んだおじいちゃん見えたっ!ゔぁんゔぁん!」

 

とここまではテントウムシのブスもテントウムシのブスなりに明るく楽しく生きているのだから良いではないか。たまに死んだおじいちゃんにも会えるみたいだし。職業に貴賎はない。それはキャバ嬢であっても同様である。俺はこの者たちのことを勘違いしていたようだ。みんなみんな生きているんだ友達なんだ。人権もある。とこの世に生きる歓びを噛み締めて何故か1本5万円もする黒霧島のその薄くなった水割りを舐めた。とその時である。テントウムシのブスが俺の顔面をいみじくも見やりながらこう言った。

 

「ゔぁんゔぁん!ねぇねぇ、お兄さんさぁ、あの人に似てるよね、あのーほら、芸能人の、あの、なんだっけ。つーかゲイっぽい!ゔぁんゔぁん!」

 

初対面の人に殺意を覚えることはそうそうあることでは無いが、今回はハッキリとそれを感じ取れるほどに俺の体は殺意とロックで満たされ、俺の中に居るもう一人の俺がニイタカヤマノボレ、ナウ!と何度も何度も叫んでいる。

断じて俺がゲイっぽいと言われたことに腹を立てているのではない。性的嗜好は個人の自由であり、たとえ俺が本当にゲイであったとしても何も後ろめたい事は無いし、それを恥じる理由も無い。

俺がムカついたのは、このテントウムシのブスが俺を芸能人の誰かに似てると宣言し、しかしそれがパッと浮かんでくる相手ではなかったためこれを思い出すことを諦め、全然関係ない角度からあまつさえ性的嗜好を絡めたええ加減な事を言うというその責任感の無さに対してである。そして正直に言うと、あまり芸能人に似てると言われたことのない俺は、このテントウムシのブスが果たして俺をどんな芸能人に例えるのかわりかし期待に胸を踊らせていたのである。こんなテントウムシのブスみたいな者からでも、イケメン芸能人にたとえられたら嬉しいやん。しかしテントウムシのブスはそれを成し遂げなかった。中途半端なことを言いやがったのだ。

全身が怒りに満ち溢れ、闇を切り裂く太陽の化身と成った俺をもう止めることは出来ない。

 

「やめてーよ。そんな、中途半端に言うのはやめてーよ。芸能人に似てるって聞いて、誰に似ているのかを想って、あんまり言われたこともないから。期待もするし。でもお前、思いつかなんだんか知らんけどええ加減なことを言うて。お前なんかテントウムシに似てるクセに。テントウムシのブス。」

 

普段怒り慣れていないので、あまり迫力ある感じで怒ることが出来なかった俺である。

 

ゔぁんゔぁん(泣き声です)。