一騎当千呵々大将軍

 

世の中にはあなたの知らないビックリ職業がけっこうたくさんあるもので、それは例えば未だに「騎士」という職業があるって事からも存分にわかり得るんだけどね。「入り鉄砲に出女」という、武器の名前入りの職業もある。武器入りの職業といえば、かつては「鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見せ士」といって、よく年寄りどもが口にする"鳩が豆鉄砲を食ったような顔"という、なんとなく想像は出来るけどそこまでピンと来ないし別に面白くもない比喩を、実際に鳩に豆鉄砲を当てて見せて、その顔をイメージし易くしてくれるという職業もあった。立派な士業であったが、食らってもほぼHPに影響のない豆鉄砲とはいえ、鳩が物を言えぬのをいいことに好き放題豆鉄砲を食らわせてその顔をお客に見せて「これこれ!これが鳩が豆鉄砲を食った顔なんです!ちゃんと見えました?もし見えなかった人、もう一度見たい人はまた50円払ってね。もう一発いくよ。バキュン!」などと喚き散らすことの何が士業なのか分からないことと、昨今の動物愛護の風潮、そして鳩に直接豆鉄砲を当ててその顔を見せるんやったら「鳩が豆鉄砲を"食ったような"顔を見せ士」ではなく「鳩が豆鉄砲を"食った"顔を見せ士」ちゃうんかいボケ。ええ加減なこのばっかり言うとったら殺すぞ。と全国から脅迫まがいのクレームが相次いだ為、それではさすがに担い手も少なくなって20世紀の終わり頃には完全に廃れてしまった。

あと変わったところでは町の景観、風情に関わるという意味では庭師や清掃業者に近いのだが、それらと違いちょっぴりバイオレンスなことが特徴的である「夜明けの道。帰宅途中のキャバ嬢に背後からスタンガンを食らわせ気絶させ、人気の無い処へ引きずり行きて首を刈り師」という句読点入りの職業もあるが、職務内容的にあまり公に出来ない職業であるため、各種書類へ職業を記入しなければいけない際は、「サービス業」と書くそうだ。それはどうでもええか。

 

ところで、私の職業はというとこれも御多分に洩れずあまり世に知られていないビックリ職業であり、その名も「一騎当千呵々大将軍」という理解に苦しむネーミングセンスの職業なのであるが、いったいどんな職業なのだろう。どないしてマネタイズしてんねやろ。といった素朴な疑問が噴出しているのは分かるし、その疑問に対して真摯に向き合うのも一騎当千呵々大将軍としての大切な大切な職務であると考えているので、考えているんです。だからお答えします。よろしくお願いします。

 

一騎当千呵々大将軍とは居酒屋のトイレとか、シケた街のお土産屋の湯のみ等に書かれているどうしようもない詩みたいなやつ、たとえば「あなたがいたから、しんじあえた」とか「遊び楽しむ 食べる楽しむ」とか「まだ俺の番じゃねえよ」とか「それ俺のせいじゃねえよ  みつを」みたいな、みつをのパクリみたいなアホみたいな文言を雑な筆文字で書いてある感じのやつ、あれを書くのが一騎当千呵々大将軍という職業の主な職務内容である。

 

一応ちゃんとした会社の社員として私はこの職業に従事しており、面接の時に「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」という言葉を私が考えたことにして履歴書に書いたら受かったという人事からしてアホしかいないという哀しみの会社であるが、社風自体はとてつもなくアットホームで、事務のオバハンがよく佃煮やら煮付けやらを持って来て昼時に社員に配って回るし、しかも勝手に作って持ってきて勝手に社員に配っている分際で、

「もーホンマ、毎日毎日アンタらのおかずのメニュー考えんのも大変やねんで!(笑)」

 

とか言って張り切っているので、しかも毎日メニューを考えるのが大変とか言うてる割には週に3回はほうれん草のおひたしを持ってくるし味薄いし、それさえ無ければ本当に良い会社で、これからもここで一騎当千呵々大将軍として、よりどうしようもない詩が書いてあるグッズを世に送り出そうと考えている。「川の字で寝る幸せだ」とか書いてある絵はがきを世に送り出していければ、と考えている。