アングリーマングリー

 

アタマが割れそうになるんだ。アタマが割れそうになるよ僕ら。こんなにしとどにジャガジャガと酷使されて搾り取られて。搾り取られました!と言える相手もおらずに、豚みたいなババアにヒールの踵で足を踏まれましたし、僕らはサンダルでございましたし、それはさすがに声も出るから思わず「痛みっ。」ときわめて小さい声で(蚊の屁のような声)言いてしまったまでは仕方がないが、したらその豚みたいなババアは、豚ヅラの地獄耳、みたいな、あんまり良くない意味の諺みたいなババアで、僕らの小さき叫び、しかし魂の叫びはヴィンカンにこれを聞き取り「だらえお、うどにもぅ。だーしぇいらいよ。」といった決してヒト語ではない言語(おそらく豚語)でなにか文言を(おそらく文句)を醜悪なツラを添えて提供してくれて、もうなんか逆にありがとう。逆に感謝。まだ僕らにも怒りという感情、アングリーが残っていることをこの豚が教えてくれた。と物事をポジティブに捉えた僕らはそこまでは良かったが、この豚にそんな僕らの繊細な気持ちが伝わる筈もなく、なんとこのピッグは、帰宅してすぐに炊事や洗濯もんを畳んだりするのではなく少しく休憩してまったりして、そっから雑事を始めるみたいな、コーヒーブレイクみたいなブレイクを皆んなもきっと日常生活の中に挟んでいると思うんだけど、そのブレイク中に食べようと思って楽しみにしていたコーヒーゼリーの入った袋を手から提げていたのだけど、なんとその袋の中から豚はコーヒーゼリーをふんだくってその場で食べ始めたんだ。

 

さすがにこれには街で一番ささやかな者として幅を利かせている僕らも少しく違和感を感じ遺憾を感じたから、その意を表明しようと豚に物申したんだ。

 

「大上段から失礼します。貴方に自覚があったか無かったかは此方では分かり得ないのですが、先ほど貴方は僕らの足を、サンダル履きなので剥き出しの足の甲を、その過剰な体型とともに踏みにじったのです。穴が空くかと思いました。目頭にうっすらと熱いモノがこみ上げてきましたが、あれは痛みと哀しみから来るそれであったと、今となっては思います。しかしそれももう過ぎ去った過去の話。いつまでもそんなささいな事象に拘泥していても明日は拓かれないので、痛みも引いてきたことですしここは大岡裁きで反故に処すとして、貴方、楽しみにしていた僕らのコーヒーゼリーを僕らの袋から勝手に出して食べていますね。人のモノを勝手に食べてはいけないのですよ。それをオッケーにしてしまうとヒトはまた狩猟民族へと、ストーンエイジへと逆戻りしてしまいますから。そのコーヒーゼリーはもう差し上げます。しかし一言貴方から僕らに謝罪の言葉が欲しい。ただそれのみを求めます。」

 

豚は、僕らが遺憾の意を表明している間にもコーヒーゼリーを食べ続け、聞いているのかいないのか分からない雰囲気であったが、ズルルっと最後の一口をカップに口をつけて流し込んだ後、スプーンに付着したクリームをペロペロナと舐めながら口を開いたんだ。

 

「そんなもん、電車の中にコーヒーゼリーを持ち込む者が悪い。世の中にはコーヒーゼリーを食べたくても食べられない人がたくさんいるんや。それをあんたは、まるで自分が小国の王子かのようにコーヒーゼリーを持っている振る舞いをして。金持ちやったら何やってもええんか?恥を知りや。あんたが自慢気にコーヒーゼリーを持ってることに傷つく人もいるんやで。そういう思いやりの心が無いからバチが当たったんやわ。きっと神様がバチ当てはったんやわ。それが分かったらもう二度と電車の中にコーヒーゼリーを持ち込むんやないで。死ね。」

 

なるほどだ。発展途上国にはカカオ栽培に従事しながらも、一生チョコレートを口にすることのないまま亡くなられる方も多いと聞く。僕らのこのコーヒーゼリーを電車の中に持ち込むという行為は、たしかに誰かを傷つけることなのかもしれない。今一度、僕らは自分たちの在り方を考える必要がある。

ただ豚は最後に一言、「死ね。」と付け足したので、それに関してはさすがの僕らもアングリーマングリーを否めず、アタマが割れそうなんだ。アタマが割れそうになるんだ。だから僕らのアタマが割れてしまう前にーーー。

 

あまり使いたくは無かったが、いつも僕らが持ち歩いている鉄扇で豚クソババアを思う存分どつき回した。どつき回したんだ。