じゃかまっしゃ

 

例えば夜空を一人で見上げて、「俺はどうしてあの時、あのコの肩に手を回さなかったんだろう。半額シールが貼られるのを少し遠巻きからチラ見しつつ、あの山賊焼きが食べたくて、それも半額で食べたくて、だから半額シールが貼られるやいなや獲りに行ってやろうとスタンバっている。のがなんか恥ずかしい、シェイム、と感じて半額シールが貼られる前に山賊焼きをカゴに入れてしまい、しかしその瞬間に店員が山賊焼きコーナーに半額シールを貼りに来たが、すんません、これにもシール貼ってもらえますか?とかはよう言わんねん。俺は。でも言うといたら山賊焼きを半額で食べられたわけで。嗚呼、恥ずかしがらずにシールを貼ってもらえば良かった!という変なトコロで高潔で居たい、というプライドが俺を邪魔して、だからあの時もあのコの肩に手を回せなかったんだよね。そして夏は行ってしまったんだ。」と古いメモリーを引っ張り出して寄りかかって感傷に浸りている時に、

「セノオ。セノオでございます。この度はこんな小粋な素敵なおべべの方も着させていただいて、髪の毛も今日はお母さんやなしに美容院で美容師の人にパリッとした雰囲気にしてもらって、注文どおりの仕上がりに非常に満足しておりますのはセノオ。セノオでございます。基本的に自分さえ良ければ後は野となれ山となれ、なドライで姑息な性格の今までのセノオでしたが、最近はそれでは幸せになれないと気づき、かつての世を嘗め腐ったバリバリのアホであったセノオは鳴りを潜め、どうでしょう、この憑き物が落ちたように晴れやかな表情のセノオ。セノオは。宝物でしょう。これぞ世の宝でしょう。もう夜もすっかり更けておやすみの方も多いと思われるこのシケた街で、シンプルに迷惑なヴォリュームでこの軽トラックの荷台からトラメガを用いて皆様に最後のお願いにあがりましたのはセノオ。セノオでございます。最後のお願いとは具体的には、世の中をセノオみたいな己を悔い改めた人間にとって有利にしてくれ、各種クーポン券をアホほど発行してくれ、というお願いでございます。というのもセノオは本日、この整った身なりに整えるのに決して少なくない銭がかかりました。ひとりのセノオが身なりを整えるだけの、たったそれだけのことで少なく見積もっても¥300からかかっているのです。まぁそれはさすがに少なく見積もり過ぎですが、もしも本日このセノオが大量のクーポン券を持っていたなら………」

と結局何が言いたいのか分からないセノオが大騒ぎしていればどうだろう。雰囲気から何から全てがぶち壊しになり、まるでその思い出までぶち壊されたような(セノオに)気分になってしまうのではないだろうか。そんなことはないか。いや、ある。なる。

アル。ナル。

 

長女の亜瑠(ある)ちゃんと次女の奈瑠(なる)ちゃんはいつも一緒にいて、なので友達や近所に住むめっちゃ不細工なクソババアどもからは二人まとめて、アルナル、と呼ばれていた。

「アルナルちゃん、今日も二人一緒だね。え?北京まで散歩?その規模でも散歩って呼ぶのだね。さすがアルナル、器がでかい。」

「まあアルナルちゃん、大きなズダ袋を引きずって、二人で力を合わせて、おつかい偉いね。え?田んぼを荒らす猪を?ぼたん鍋?その蛮勇でもおつかいって呼ぶのだね。さすがアルナル、技術がすごい。」

「おやおやアルナルちゃん、返り血?さすがアルナル、限度を知らない。」

そんな感じでアルナル、アルナル、と呼ばれていくうちに、友達や近所に住むいつもパン屋からパンの耳をタダでもらっているクソババアどももだんだんと、アルナル、の発音がええ加減になってきてそのうち、アナル、アナル、とアルナルのことを呼ぶようになりました。アナル。これにはさすがのアルナルも特に何の反応も示さずこれまで通りに清らかに健やかに、焼肉などをよく食べに行っていたそうです。食べ放題の。若いですねえ。

 

話を戻して、セノオである。なる。アナル。いや、それはもう大丈夫でセノオである。

やたらと声が大きい、というのは別にこれはセノオに限ったことではなく大抵の、俺が世界のど真ん中型人間、に当てはまることで、普通の、それなりに知能のある人間は脳内にいくつかの検閲があり、これは相手に伝わる、これは少し分かりづらいので言い方を変えよう等の校正が加えられる故に思ったことをノータイムで発言することは稀であるが、こと俺が世界のど真ん中型人間においては脳内の検閲無人で、たとえば自力で家を建てようと思い立ったとして、脳内の検閲がちゃんと機能している人間は、

「私はこれより自力で家を建てることを決めた。そして永く住める家がいい。木材はもちろん、セメントや鉄筋をを用意しよう。」

といった具合に決意表明し周りの協力をあおぐのであるが、これが脳内の検閲がすっからかんな人間であると、

「木ぃっ!」

と一言、お猿のように叫ぶのみなのである。

しかし当然猿語は人には通じないので周りの人たちは困惑して、「うん?どうしたの?」ときわめて優しく聞き返すのであるが、俺が世界のど真ん中型人間は俺が世界のど真ん中であるので何故に自分の、この聖なるど真ん中の言うことが伝わらないのか理解出来ず、だんだんキレてきて、

「木ぃっ!!(なんで伝わらへんねや。)木ぃぃっ!(自力で家を作るんやから木が要るやろ。わかるやろ。)木、木ぃぃいっ!(家や。家を作んねや。せやから木が要るやろって!わかれって!)」

などとだんだん本物の猿に近づいてゆき、最終的には腕を振り回して家の形のジェスチャーなんかもし出して心優しき周りの人がそこでやっとピンときて「あ、家?家を建てたいの?それで木?」とこの猿が求めている事をようやく理解したら、

「ウキーッ!」

 

とか言うて、もう猿そのもの。大声で叫べばいつか相手が理解してくれる、俺はこれでやっていける。そうやってまた世界のど真ん中に拍車がかかるのである。そしてセノオの様なゴネ得上等な品性下劣、品性ゲレンデ(品性が滑降していく様子をよく捉えている秀逸なダブルミーニング?)が世に憚る。憚んなよ、じゃかまっしゃボケ。