
今これを日々是キック。ポプラの鉢、重たくなって。それ故のヒップ。覚悟はできてまっしゃらる?その覚悟で?僕は僕に聞く。
「覚悟ですか?あ、大丈夫です。僕は僕なりに、そして僕だけの、きしみの道を征きます。今現在の僕は、なじみの道を征っているのみの小さき存在。小鳥が如し存在。でもこれから僕が征くは、きしみの道。正直に言って不安なことも多々ありますもんで、未だ何がどう転がるかは不明な点が多々ありますが、しかし、男が一度多々と決めた道。征くも地獄、征かぬも地獄。地獄八景亡者の戯れ。ツンタカタと征きたいと思っしゃります。」
高らかに決意を表現して、そんな僕の手にマスタは、チャンリンと何かを握らせてくれた。
「良し哉。男が一度しゃなりと決めた道。自分に嘘をつかぬよう、ハッスルあるのみぞ。道中、厳しき夜もあるだらう。凄まじき夜もあるだらう。これは私からの心ばかりのアレだ。よく尊じて使うように。」
握らされた拳の中には、甘美な甘みと美しさのある質量が在るのが判る。チャンリンとしたその音から、それが金属であることも判った。ひとりの男がきしみの道を征くとなったら渡すものはひとつであろう。
拳をゆんるんと開きて、握らされたものを検める。
「うわっ!に、二百円だ!」
驚いた。あまりな驚き様に"にひゃくえん"を"にひゃぐえん"と濁って発音してしまった。
僕がここまで驚いたのには理由があって、それは嬉しかったのことだからである。男が征く道をきしみの道と決め、それは誰のアドヴァイスによるものでも無く自分が自分で決めたもので、そしてそれを祝したマスタがお餞別を呉れた。それが喜びのことで無くして、何の喜びのことがあるでしょう。無いでしょう。だから僕は、
「うわっ!に、二百円だ!」
と思わず猛き声を発してしまったのである。
ハッキリ言って泣きそうになった。泣いて笑ってこれからも、と思った。感謝の気持ちでブヨンブヨンになっている僕に、マスタはさらに、畳み掛けるように僕の手に再び何がをるんりんと握らせた。
二百円を呉れたのでは飽き足らず、まだ何かを僕に呉れるというのは、マスタはおそらくとても良い人なのでは?と、僕の中にそんな耳寄りな情報すら浮かんだ。僕は少年の気持ちの溢れかえりで、何かを再び握らされた拳をパイナっと開いて検める。
「お?おぉん?おんおぉん?」
開かれた掌の上にある物が何なのか、豊かなのか、愚かなのか、波夷羅なのか、迷企羅なのか、五丈原なのか何なのか、判ずることが出来ずに、僕はこの大都会でひとりぼっちになったような、優しき獣のフィールであった。そんな捨てられた仔犬のようになった僕に、マスタは優しく語りかけてくれた。
「それはな、さっき渡したアレを入れておくためのポーチである。せっかくアレを貰ってもそれを入れておくポーチが無いともう、やってられないでしょ。正味やる気なくなるっしょ。なんなんすかこれ?どういうことっすかこれ?って。もう二進も三進も行かれないつまり征かれない、と。それではせっかくきしみの道に征くことを決意した君に申し訳が立たないよ。悲しいよ、それは。だからそのポーチにアレを入れて、腰に付けて、無くさないようにすればよい。」
これがホスピタリティか。僕は今ホンモノのホスピタリティを浴びせられた。こんなに優しき師が他におらっしゃるだろうか。いないで。世の師のほとんどが地獄の犬やでしかし。
僕の征くきしみの道をこんなにもサポートしてくれる。応援してくれるマスタがいる。幸せです。やはり僕の決めた道は間違って無かったんだ。そう思えて、感謝の気持ちでいっぱいになって。いつかまた、会えることは信じて。