ドリルをもつ父

 

地震雷火事親父とはよく言ったもので、父親というのは本来、天災と肩を並べる程に立ち向かいようの無い者、ごっつ恐ろしい者として子供達は震えており、父親が仕事から帰ってくる時間帯になると子供達はさっきまでの喧騒、狼藉が嘘のように静まり返り、そして父親が家路を急いでいるであろう朱く染まった西の空に向かって、

「神さまお願いします。今日こそ父親が帰って来ませんように。てゆーか、お母さんと僕たち子供たちだけで見ての通り十分幸せな生活を送れていますのに、なんで父親みたいなもんが帰ってくる必要があるのでしょう。ハッキリ言っていくら血の繋がった父親とはいえ、家の中になかなかのおっさんが一人居るという状況って異常だと思いませんか?冷静に考えたら異常ですよね。白雪姫の森の小人たちの中に一人だけ小人でもなんでもない、本格的なおっさんが混ざっていたらどうですか?まず白雪姫が引きますよね。小人七人とおっさん一人、なんか知らんけど関わりたくないジャンルの人たちだわ、ってたぶん思うと思いますよ。これからこの家に父親が帰ってくることによって、まさにこの家がそういった、白雪姫が引く感じの家庭になってしまうんですよね。それって僕たち子供たちはもちろんのこと、たぶんお母さんも望んでいないと思うんですよね。まあだいたい言いたいことは分かっていただけたかと思いますが、そんな感じで今日こそ父親をなんかこう、グチャッとしてはいただけないでしょうか。グチャッと。マジで言うてますんで神さま、よろしくお願いします。」

と祈りを捧げるものでありましたが、現在はそんな家族全員から忌み嫌われるような昔気質な父親が減ってきており、嫁や子供たちに対してイーブンな関係性でいこう、という風潮が広まり染み渡ってきているということで、イーブンな関係性ということは、それは同時に父親という肩書き、ポジショニングであるからこそ得られてきた、おかずが一品多い、風呂には一番に入れる、嫁より遅く起きて早く寝る、といったスペシャルボーナスも消え失せ、父親とは今やギリギリのところで人権が認められている程度の存在と成り果ててしまいまいまいました。

 

そんな父親にとって現世地獄と言ってよいこの浮世において、何とか父親という存在の威厳を取り戻そうと、手に手にドリルを持つ父親が増えてきているということを皆さまはご存知でしょうか。

 

ドリル。

ドリルの先端に付いたドリル刃をドリルすることによってこの豊穣の大地や恩寵豊かな大地やしょうもない板なんかに穴を穿つ機械?道具?ドリル。

男女が数人で集まってお酒を飲む、いわゆる合同コンパみたいな飲み会の時に、特にお酒を飲むわけでもなく、特に会話に参加するでもなく、楽しそうでもなく、かといって帰るわけでもなく、此奴今日何しに来たんや、みたいなボノ子みたいな女に対しても一応此方の満点のサービス精神で、

「マジかよ!そりゃジョイナスなこってぇ!嗚呼笑うた。そういえばさぁ、ボノ子ちゃんは彼氏とかいるの?」

なんてな感じで一応ボノ子にも話を振ってはみるのだが、ボノ子は此方をまるで泥を吸ったスポンジでも眺めるかのような捨てたような視線(優れた比喩)でこちらを睨んで何を言いだすかと思えば、

「いや、間に合ってますんで。」

え?なになになに?なにが間に合ってるんですか?それはなに?彼氏という存在が間に合っているということでよろしいですか?よろしおますか?てゆーことはなに?さっき俺が貴様にボノ子に戯れに尋ねた「彼氏とかいるの?」という質問の裏には「ボノ子よ、もし彼氏が間に合っていないならば俺なんてどうだい?こう見えて地元ではジェントルマンでとおってる俺。稼ぎも酒癖も悪いけど彼女に対してはめっぽう優しいそんなガイさ。コンチはデカいぜ。だからまずはセックスから始めてみないトゥナイ?」みたいな思惑が隠されていて、しかし聡明な私ボノ子はそれを見透かしているわけで、そしてお前(俺)みたいなどう見てもええ加減なアホのどチンピラと交際するなんて天が落ちても考えられないので本当は彼氏が8年もいない私ボノ子であるがそれを正直に告げてこのタコ助(俺)に妙に好意を寄せられても迷惑な話なのでここはこれ以上の詮索を阻止しつつ出鼻を挫きたい私ボノ子なので

「いや、間に合ってますんで。」

と答えたのかこのボノ子は。

 

嘗めるなよ。ボノ子てめえ。言わせておけば妄想の中とはいえ俺(俺)に対してアホだのタコ助だのとほざきゃあがっててめえ。なんでこの私(俺)が貴様のような無愛想なブス、これ即ちブ愛スに対して隙あらば求愛のひとつでもぶちかましてやらうと考えていると考えているんだこのアマ。ブス。何が「いや、間に合ってますんで。」じゃい。貴様のようなブ愛スが間に合ってようがなかろうがこの私(俺)、太陽みたいな私(俺)が色めき立って求愛するわけがないだろうこのアマ。そしてブス。ただじゃおかねえぞこの野郎。どうしてやろう。この野郎。

穿ってやろうじゃない。貴様の脳には腐って機能していない部分があり、それは薬とかでら治らないヤツなので、それ故にブ愛スなので頭蓋に穴を穿ってその腐った部分を引きずりださなあかんねん。せやから穴穿つねん。

何で?

ドリルで。

ドリルでドリルしたるわ。覚悟しとけよ!

主にそんな時に使う機械、ドリル。

 

てなわけで世の父親は真っ赤なバラと白いパンジー、ドリルの横にはあなた(ボノ子)ということで手に手にドリルを持ちて有事の際には何人たりとも已む無い、穿つ。つーかこのドリルを持つ父親の逞しさをまず見よ。崇めよ。そして世に父親の権威を恢復させてよ。お願いよ。ということで己が権力の衰退を感じたところでドリルを持ちてウィーン、と回してみたりして父親、家長の権力、失われたユートピアの奪還にいそしんでいらっしゃるということでありますが、はてさて、うまくそれが家族に伝わるのやら。

そして、ボノ子みたいなふざけきった勘違いブ愛ス女が絶滅し世に再び朗らかに男女飛び交う春、みたいなのは訪れるのやら。

 

ドリルをもつ父、頑張れるのかやら。