ピの助ピッピ、おはようピ

 

ピの助ピッピ、おはようピ

ピッピッピノピノ  ピッピッピ

 

ピの助は上に記した、ピの助の唄、を完璧に歌える世界で唯一のシンガーソングロボットである。その声量たるや凄まじく、北はウランバートルから西は太秦まで響き渡る、はっきり言って大迷惑な声量であり、ピの助を発明した工学博士、Dr.ピの助は世間からの苛烈なるバッシングの嵐に耳を塞いでいた。

 

「私Dr.ピの助が完成せしめたこのシンガーソングロボット、ピの助の歌声に対してみんなしてごっつ怒るなんて、お前らも充分ラウドネスやんけ。お前らみたいなもんはピの助や。いや、下手したらピの助以下の下賤な存在だ。ピの助に対して怒り狂っている内に自分自身もピの助またはそれ以下の存在と成り果てる。こんなオモロイことがあるだろうか。いや、無い。いや、有る。世の中にはオモロイことがたくさんある。その内の一つがピの助とお前らの関係性なのかもしれなせんね。」

なんて日夜嘯いていたわけです。

 

とはいえ、開発者であるDr.ピの助自身もピの助の歌声の大きさには辟易しており、これがもし開発したのが自分ではなく他の科学者であった場合はどうだろう。四六時中喧しく歌を、気の向くままに歌うシンガーソングロボットを開発したのが自分ではなかったら。そして毎夜その歌声に豊かな眠り、一日の命の終わりを妨げられているとしたら。

Dr.ピの助は人の気持ちを凄く慮れるとてもイカした人間故にこう思った。

「控えめに言って殺すやも。」

と言うと大げさであるが、それほどにピの助の歌声は喧しいものであるし、いくら世間にかまって欲しくて開発したピの助とはいえ、少々うるさすぎる、ね、と痛み入るし、このままいけば刑法第六億条「あまりにもうるさいシンガーソングロボットを開発した者は、俺が考えた刑法第六億条により俺が考えた十年未満の懲役。または百万円以下の罰金に処す。これを"うる罪(さい)"という罪名にします。よろしくお願いします。」という罪に問われてしまう可能性がけっこうあり、てゆーか問われるのであり、そうなれば私は前科者になるし、初犯とはいえその被害はウランバートルまで広がっているのであってこれは国際的なアレになる可能性があり、となると執行猶予がつかない可能性がありてナーバス。

 

ということでピの助の歌声の音量を少しく下げてやろう、みんなで幸せになれる音量にしていこうと思い直したのですが、ピの助に対し手前で設定した音量を手前の都合で自在にこれを上下させるというのは手前勝手すぎやしねえか。自分で産んで自分で殺すみたいな、そんなことを何のためらいもなく為すというのは如何なものか。おいDr.ピの助、お前はいつの間にそんなに利口になってしまった。そうやって飼いならされて死んでいくのか。そんなことの為にピの助を開発したのか。思い出せ。お前が世間からなんの関心も寄せられていなかった頃のことを。どうでした?辛いとか悲しいとか以前に、虚しかっただろう。それが今はどうだ。お前がその手で開発せしめたピの助の歌声のおかげで世間はお前に対し怒り狂い、誰も皆Dr.ピの助の名を悪の博士として認知し、紙面には連日お前の虚実ない交ぜの悪行が躍る。

これがお前の望んだ"生きている"ではなかったのか?

 

ピの助ピッピ、おはようピ

ピッピッピノピノ  ピッピッピ

 

ここでもし世間のことに配慮してピの助の歌声の音量を下げて、

「ああ、あのDr.ピの助という男はほかのマッドサイエンスと違って話せば分かってくれるタイプの奴や。まああのシンガーソングロボットのピの助とやらの歌声は此処ウランバートルまで強かに届いておりクソ迷惑ではあったが、それも何、今となっては良き思い出。夏の終わりのサマータイムブルース。長い人生、そんな夏があっても、悪くないだろ?」

なんて世間の人間から思われたとて何だというのか。

お前のマッドサイエンスはここまでか?

お前のまほろばはここまでか?

まほろばって何?どういう意味?

よく聞くけど全く意味が分からないワードランキングにおいて、あすなろ、と双璧を成す全く意味がわからない、伝わってのこないワード、まほろば。今のDr.ピの助、お前はまほろばや。まほろばダイエット!

 

「ピの助がうるさくて何が悪いのか。悪いよな。だが私はこのピの助の歌声の音量を下げない。それどころかもっと音量を上げられる機械を拵えて、北はウランバートル、西は尼崎までこのピの助の歌を響き渡らせてやろうじゃねえか。そして世間からの苛烈なバッシングはいや増して苛烈となりて、しかし、それがどうした。うる罪?それが何だというのか。なぜならこれこそが、このピの助のあまりにラウドな歌声こそが---」

 

Dr.ピの助、それで良い。

Dr.ピの助はピの助の音量調整ノブをフルテンまで捻り上げて。

 

 

「私の"生きている"なのだから。」