君は誰

 

君が誰だかわからない。

僕が誰だかわからない。

君は僕が誰だか知ってるのかい。

君は君が誰だか知ってるのかい。

 

よく記憶喪失モノの映画やなんかで、主人公が記憶喪失になって目を覚ました瞬間に、

「君は…誰?」

とか言うてるけど、僕ならまず自分が誰なのかを気にするだろう。自分が誰なのかわからないし、目の前のコイツが誰なのかもわからない。そして最終的に「おぉん?」とか唸って、「ぽよよ?」とか唸ってしまうのみだろう。

 

そもそも普通さ、生活していましてさ、初対面の人にいきなり「君は…誰?」なんて訊ね方をすると思うかい。初対面の人に対してそんな訊ね方をするのは相当に不躾なことであると思うし、そういう人は世界が自分を中心に回っていると思い込んでいるので、ウノ・ジョージのような性根の腐ったボケなので「俺は俺として俺が何者であるかわかっているし、しかしそれを此奴に説明する義理はないので後で名刺でも呉れてやればいいとして、俺は俺として此奴が誰なのかを知らないし、かといって此奴はさっきからずっと俺の顔を茫と見つめるのみでちっとも自己紹介をしやがらぬ。この俺を目の前にして。ムカつくので「ムカつく。」と言うてやっても良いがそれだと此奴がもしや群を抜いて素晴らしい人格の持ち主として名を馳せていた場合、そんな此奴に初対面でいきなり「ムカつく。」なんて吐かしてしまった俺の評価がガタ落ちしてしまうのでやめておくとして、しかし此奴が何者かは気になるので俺から口を開くのがなにぶんムカつくわけではあるが仕方ない、誰何してやろう。」なんてな具合の楽天坊主のへの字口、どんぐり眼に薄パイナなトンデモ思考回路を持っているが故に

「君は…誰?」

等と失礼なことを吐かせるのであり、つまり記憶喪失モノの娯楽作品なんかで

「君は…誰?」

なんてなことを吐かす者はウノ・ジョージと同じ地獄へ行く最低の人間と考えてまず間違いないのですよね。

 

しかしこんなウノ・ジョージ系の主人公が跋扈していてもなお記憶をテーマにした娯楽作品というのは非常に多く、一説によると記憶をテーマにした娯楽作品は、ナマズをテーマにした娯楽作品よりも9億倍多くこの世に存在するらしく、この事実に対してナマズ業界はめっちゃビックリしているかと言えばそんなことはなく、ナマズ業界のドンも「いや、そりゃあ記憶をテーマにした娯楽作品の方が多いでしょどう考えても。てゆーかそもそもナマズをテーマにした娯楽作品なんてあるんですか?痛快娯楽作品。無いでしょ。たとえあったとして、我々ナマズ業界はどんな顔をすれば良いんですか?別に嬉しくないんですけど。」と私の取材に対して語っており、まあね、上がそんな態度でやってるからいつまで経ってもナマズをテーマにした娯楽作品が生まれないわけですし、ひいてはナマズ業界がイマイチパッとしない、若手が集まらない業界と成り果てているということに早く気づいて、もっと業界全体の風通しを良くすることがこれからのナマズ業界には必要なのではないでしょうか。

 

「君は誰?」

「僕は爆弾小僧。爆弾小僧なんだ。しかも君も爆弾小僧。爆弾小僧なんだ。」

「爆弾小僧ってなに?」

「叩けば埃が出るような、ひとたび突けば爆ぜるような、そんな切なく、刹那的で、有限の存在さ。しかも全然月謝を持ってこない。」

「なるほど。」

「まあアレだね。君にきっと、素晴らしい夏が訪れますように。」

 

「おおきにやで。」