
(何かを諦めたような感じで)私は、私みたいなもんは、いや、私みたいなもんってのは言い過ぎかもしれませんね。もっと自分に自信を持って、自分を愛して、自分らしさを大切にして生きていったほうが良いですよね。それがこの世に生を受けた者の使命であり、宿命だと思います。ありがとうございました。お先に失礼します。お疲れ様でした。(家路につきつつ後輩たちに)おつかれしたー。でしたー。
(バタバタした感じで走って戻ってきて)ってヲイヲイ!私が帰ってどうするんじゃいて!話進まんじゃいて!ホンットそそのかしいのだから。人一倍、そそのかしい私だから…。
そう、私はそそのかしい女。そして色で例えるなら、クンピ。桃色の女。(微笑をたたえつつ遠い目をしている。その目には涙が浮かんでいるようにも見える。その時、岩石と呼ばれた男、飛び入りて。そして通り過ぎて。)
私は、私はそそのかしく、そして趣味を持つ女。いいえ、持っているのは趣味だけじゃない。自転車も持ってる。フライパンも持ってる。あんまり使わなくなったけど美顔器も持ってるし座頭市のDVDボックスも持ってる。その中のひとつが趣味。ホビー。(夜空に星の光で「ホビー」という文字が出る)
その趣味というのがこれ。そう、お花。お花の趣味。(手に持った切り花をシャナと揺らしつつ。)
お花を千切りて、そして剣山という針を束ねたような、そんな地獄のような器具にその千切りたお花を刺して、そしてその刺さり具合の美しさ、芸術的さによって、褒められたり貶されたり、殴られることはないにしても時に烈しい罵倒をされながら泣きそぼろえて尚お花を刺す。剣山に。(剣山を掲げるように持ちつつ。)剣山。剣ざぁーん。(めちゃめちゃしょうもない水鉄砲を持った男、満足気な表情をして。)
(お花と剣山を弄びつつ。)でも私は思うんです。お花ってほら、自然界に自然な形で咲いている様が一番美しいのに、と。
一番美しいのに?のに?のにってどういうこと?ぼかぁ莫迦だから季節を問わずに半そで半ズボンなんだけど、そでが欲しいと思ったことは無いよ。(半身、機械となりて。)
そんな自然な、自然界なお花の姿こそ一番美しいとわかっているのに、私たちのような、趣味がお花の者は、そんな美しい姿のお花を千切りて、剣山に刺しては勝っただの負けただのとそれぞれのステップで大騒ぎして、なんだか真っ赤な嘘みたいなことを絶えず繰り返しして。情けのうて情けのうて。(お花を持ったまま崩れ落ちるように膝をつき。しかし剣山は持ってると危ないので崩れ落ちる前に3時の方向へ投げる。)
自然な姿がベストなこのお花たちを、私たちは摘み、刺し、騒ぐ!(ほとんど泣き叫びながら。しかし内容的に先ほどとほとんど同じことを言っているので俺は何も感じない。)これが真のお花好きの、果たしてやって良い行為なのでしょうか。なんか違うと思うんですよね。(最低な人間、増え続ける。)
でもだからといってホビーですゆえ、やっていて楽しい行為ですゆえ、これをやめる気には到底なれずに。(ゆっくりと立ち上がりながら。その隙をついてゴハンを食べる核家族。許される。)コンティニュー…するしか…。
だから私、最後の一本が枯れるまで、きっと面倒を見ます。枯れたらドライフラワーにします。茎は煮詰めてフリーマーケットで売ります。B級グルメとして売ってゆきます。(シンプルな味付けの枯れたお花の茎、その想像図が頭上に浮かぶ。)味はシンプルに、しかし個性的に、しかし枯れたお花の茎なのでクソマズいことを念頭において、いっそのこと瓶詰めのまま窓辺に飾るか、ロマンチックに海へと流すか、それを決めるのは他ならぬ私。私の千切りたお花だから。私の刺したお花だから。(顔をあげる。その表情、憑き物が落ちたが如く晴れやか。)
私は征くわ。私だけの道を。
たくさんの千切り取られたお花に囲まれた道を。あなたはその道の果てで、少し引き気味で待っていて。(両手を翼のようにして振り返り、光に向かって静かに歩き出す。その背中、潤いに満ち満ちてまるで歩くモイスチャーミルク。その頃、老夫婦が営む町の小さな中華料理屋にやって来たマダム、料理ごとに違うサイズのナイフとフォークを用意せよとわめき散らした後、何者かによって殺害される。町に穏やかな空気、ふたたび流れて。)