壁、分厚くなって。

 

人の世に壁ありと言われて久しいことですが、たしかに言い得て妙、みょーみょーみょーと三回鳴いたところでふと上を見上げるとそこに広がるのはただ青い空だけでして、壁なんて無くて。

幸せだなぁ。これだよこれ。これでいいんだよ。とひとしきり浸って視線を落とすとあるわあるわ壁がどこにもここにも。周りを見まわすと壁だらけで、人の世に壁あり、と力なくつぶやくことしかあの日の僕には出来なくて。

 

あの日ってのは一昨日のことなんですけど、「あの日の僕には…」みたいなのことを平気で口に出来るヤツが果たして実在するかどうかはさて置き、もし実在するとしたら其奴はおそらく「トーキョーにはこんなに人がいて  けれど僕はひとりぼっちで」とか「この冷たい雨は  今の僕のココロとそっくりだ」とか「小さな幸せを集めることを趣味としていこう  それをホビーとしていこう」なんつって矢鱈と繊細な僕、ナイーヴな僕、ミニマリストな僕、黒ぶちの丸眼鏡を愛用する僕、をさり気なく、しかし頻度が多いからウザったく感じる類のアピールする傾向が強く見られ、そしてそういった自己演出過剰なヤツの恋人はたいていの場合お世辞にも可愛いとは言えないというか、ブスというか、お前みたいなデブが白を基調としたアイテムで纏めてどないすんねん。みたいな者が多く、差し色のつもりで首に付けてる黒のチョーカーが首肉にめり込んでて窒息していないかすごく心配になる、といったことがありますね。

 

そんな変態ポエム野郎のことはどうでもよくて、てゆーかそういった変態ポエム野郎に対して「おめぇは本当に変態ですなぁ!」とか言うと逆に喜び出してしまいには至る所で「ちょっと聞いてよ。僕はまた変態って言われたー!すごくノーマルなのに。ノーマルな僕なのにぃ!」とか言って己の変態性、こんなに繊細でナイーヴでポエトリーな僕だけど変態なところもあるし、ほらこの間だって会合の時に平気な顔して「コテカ!(ペニスサックのこと)」とか言っていたのからも分かるとこり下ネタもブチ込める僕だし、というギャップのあるキャラクター性をアピールし出すので決して言ってはならないというのはどうでもよくて、壁である。

 

人の世に壁あり。

これはなにも空間を隔てるための壁だけのことを言っているのではなく、人と人との間にある壁についても言及しているということに気づかれた御仁は、そんな聡明な御仁はそんなにはいらっしゃらないのではないでしょうか。

 

てゆーか今めっちゃビビっときたんですけど僕の郷里の友に、としあき、という豆タンクみたいな者が居るのですが、其奴の、としあき、の名前にあてられている漢字が、聡明、そうめい、であったことに気づいてびっくりして屁が出て、その屁は僕の体を少し浮かせるほどに勢いがあり部屋のものを風圧で散らかした。散らかしたんだー--。空き缶や食べかけのポテトチップスが飛散した。飛散したんだ---。

ということもどうでもよくて、壁である。

 

人の世に壁あり。

人と人の壁とはなんでしょうか。それは心の壁のことに他なりません。初めからそれを伝えたかったのに私は、やれ変態ポエム野郎だの、としあきだのと脱線に脱線を重ね、挙げ句の果てには屁までこいて、しかもその屁の規模についての嘘までついて、遠回りをして、しかし近道だけが正解ではなくて、もがいて足掻いて、あなたとの壁を取り払おうとして頑張ってきました。ファイトしてきました。

 

私のこの一連の行為が、果たして壁を取り払うのに有効であったかどうか、それは今となってはミステリーであり、またプライオリティーではありますが、どうかあなたと私の心の壁が少しでも薄っすらしたものとなり、最終的にはあなたのことを第二のとしあきと呼べるようになればいいなって。なって思います。第六のとしあきくらいまでは居て欲しい私なんです。しかし、あなたとの壁、分厚くなって。