ワイルド・ワン

 

男は皆、ワイルドたれ。人一倍ワイルドである男の信条だ。男はワイルドでなければならない。野生をその身に纏っていなければならない。どこでも寝られなければならない。キャンプとかで活躍できなければならない。

春色の乳首とは裏腹に、男の中身はワイルドで満たされているべきだ。

 

しかし最近の男たちときたらどうだろう。

ワイルドのワの字も感じさせない軟弱野郎ばかりで、やれテニスサークルだやれ黒ごまスイーツだやれ春色の乳首だと、まるで稚児の如きフニャフニャ具合で、全盛期には数千万人いたと言われているワイルドな男はめっきり減ってしまったではないか。

 

「次の土日は崖にいこう。本場の崖釣りでがんばっていこう。」

 

こう提案されて嬉々としてついてくる男が今この地球にどれほどいるだろう。全然居ないだろう。もし居たとしてもそれは本当に行きたいワケではなく、上司に誘われたとか、先輩に誘われたとか、そういったなにか断りづらい関係の人間から誘われたからついて行っているだけで、かといってつまらなそうにするわけにもいかないので無理に「崖釣り?イイっすね!僕、崖釣り初めてなんですよ!道具とかなにも持ってないんですけど大丈夫ですか?え?丈夫な身体が最高の道具?かーっ!やっぱワイルドな男は言うことが違いますね。え?丈夫な身体が最高の道具?かーっ!この短いスパンで同じことを二回言う。これが出来るのはワイルドな男だけですよ。でもマジで道具は持って行かなくて大丈夫なんですか?必要とあれば見繕ってきますけれども。」とか言って興味があるやる気がある振りをしてついて行っているのみで、実際にはわざわざ土日を潰してまで崖に釣りなどしに行くのは面倒なことこの上なく、だいたい海水に濡れるのが苦手なんだよなー、ベタベタするしよ。フナムシとかいっぱいいんじゃね?つーかキャンプもするらしいけど風呂入れるのかよ。俺シャワー浴びないと寝られないんですけど!土日は家でサッカーゲームしたいんですけど!と思っているのであり、ワイルドさの欠片もないことは明らかである。

 

かくいう私も、ワイルドな男であるかどうかを問われると、はい、私こそはワイルドな男にございます。とは答えらるるか。

否だ。否である。

否ってゆーか否っちゃんである。というのがアタマに浮かんで消えた。否、という漢字は杏、という漢字に似ていてとても可愛いので、それで否っちゃんと言ってみたら可愛い感じがするのではないか。そう思ったんです。

しかしどうだろう。喜び勇んでひたすら勇んで満を持して否っちゃん、と口に出してみた割には、私の心にあまり可愛さとして響いてこなかったのである。それどころか、そんなやつおらへんやろ、という疑惑だけが、私のこの頭の中にへろへろと湧き出でてくるではないか。イカではないか。

 

ずっとこういうことを言いながら、生きていきたい。

 

もちろん、ワイルドに。