有名人を囲む会

 

皆んなこれは、なんだろう。何をこんなアホみたいに休日午前の電車に乗っているのだろう。どうせ大したことない用事なのに、しかし歩いて行くには遠いし車は持っていない(貧乏なので)し、けれども限定スニーカーの為に仕方なしに、美味しいと噂に聞いたラーメン屋に並ぶ為に仕方なしに、電車に乗って目的地に向かっているのだろう。

ふざけんなよクソが。クソどもが。お前らのそのしょうもない用事のせいで電車がメチャ混みやないか。運転ド下手やないか。

おい、ガキを座らせるな。座らせるにしてもガキ二人で一人分の面積で座らせろ。大人の半額の運賃で電車に乗ってる分際で何をいっちょまえな面積で座っとんねん。

おいそこのカップル、人目につく場所でイチャイチャこいてるようなカップルは何故に両人とも不細工なんですかね。失敗したシーサーみたいな顔しやがって。鬼も十八番茶も出花とは言うものの、さて此奴に果たしてそれが当てはまった時代があったのかどうか。

おいそこのデブ。死ね。

どいつもこいつも朗らかな面しやがって。俺はお前らとは違う。見やれ、俺のこの真剣な面を。此奴等、平和呆けもここまでくるともはや保険きくでしかし。

 

といった具合に電車の中で私はいつにも増してクサクサしていたのには理由があります。それは、本日はずっと楽しみにしていた、待ちに待った有名人を囲む会が開催されるから。

そんなビッグイベントに向かう私は少しく気が立っているというか、子育て中の野生動物のように近づく奴は何人たりとも已む無いというか、とにかく会場まで無事に辿り着く為に誰にも邪魔をされぬよう常に周囲を睥睨し神経を張り詰めさせている為なんです。

普段なら、電車に乗っていても周りの人たちに呪詛を唱えるなどということは全く無いのですが、てゆーかむしろ、「優しい。」とよく言われるタイプなのですが、今日に限っては些か心に余裕がない為にこんな品性下劣な満州事変みたいなことになってしまっていることをお許しください。

 

というのも、本日開催される有名人を囲む会には、ちょっとやそっとではお目にかかれない有名人が来場し、しかもその遠路はるばるやって来た有名人を思う存分囲むことが出来、シャチの狩りが如く囲むことでその有名人の労をねぎらおうという立派な義があるからで、これがもし会ったこと見たことも無い人を囲む会ならば私とてここまで気が立つようなことは無いのです。

有名人だから気が立つ。こんな気持ち、皆さんもわかってくれるのではないですか?青魚の銀に輝く皮膚を見ていると、まるでウルトラマンの切り身を見ているようで、とてもじゃないけど食べられない。こんな気持ち、皆さんもわかってくれるのではないですか?

 

皆さんなら、わかってくれるのではないですか?

 

ただね、私は思うんです。

囲む会をする前に、囲まれる側である有名人の気持ちも存分に考えろよ、と。私たちは有名人を囲むだけで良いけど、囲まれる側となるとそんなもの、囲まれるだけで済むワケが無いじゃあないですか。

 

やれお茶は出されるわお茶菓子は出されるわ軽食みたいなものも出されるわ質問はされるわ握手をもとめられるわサインも^_^するわ写真も撮るわと数えだしたらキリが無い、囲まれる側のやることの多さといったらそれはそれはです。てもしょうがないよね。自ら志願して有名人になったタイプなワケだから。