夢にまでみた夢

 

ほうほう、それで?と聞かれたいが故に、話の続きを聞き手の方から促して欲しいという歪んだ願望故にその話のサビ前にブレイクを入れるようなことをする人は何故なのでしょう。

 

「でもそれは、鰻の満州事変みたいなもんだったんですよ。」

 

こんな意味不明な比喩で話を止めて聞き手である此方の「え鰻?それってどういうこと?教えて教えて。続きを頂戴!」を貪欲に狙ってくる狡猾なスピーカーたち。しかしその意図を見抜いている私がそんな手に乗る筈は無く、「あ、へぇ。」と生返事をするのみである。

しかし!鬱陶しいのはそれでもまだ続きを話すことを聞き手に促して欲しいこの奴輩どもは、さらに食い下がってくる場合も多いから驚くのである。

 

「でもそれは、鰻の満州事変みたいなもんだったんですよ。」

「あ、へぇ。(憤、この私が貴様の下衆な手にひっかかって「え鰻?それってどういうこと?教えて教えて。続きを頂戴!」などと言うとでも?)」

「そうそう、そうなんですよ。(おい、鰻の満州事変について掘り下げろや。気になるでしょ、こんな意味不明なワード。今ならまだ間に合うから「え鰻?それってどういうこと?教えて教えて。続きを頂戴!」とでも言え!)」

「へぇ、すごいねぇ。(此奴、諦めずに未だ此方から鰻について訊いて欲しいらしいな。訊かないよ?絶対に訊かない。私を操作しようとするな。浅はかなんだよこのゴーヌ野郎が。)」

「そうですよ。まあでも鰻の満州事変というよりは……みよしの…いや、あれはやっぱ鰻の満州事変としか言いようが無いですね。(さあ、また注目のワード、鰻の満州事変が出ましたよ!今こそ訊いてこい。一言訊いてくれれば、この比喩の持つ意味を明朗快活に説明してさしあげるよってに!)」

「(此の期に及んで未だ欲するか。笑止。もうね、私の顔を見てよ。さっきから無理やりに口角を上げて薄ら笑いを貼り付けてるだけですよ。返事もずっと「うー、うー。」と生返事しかしてないじゃない。目の下の筋肉が疲れてきた。しかし此奴もガッツあるよね。欲望に真っ直ぐやん。そういうところは見習わないといけないけど私はその欲望のカタパルトにはならないよ。なので)あぁ。」

 

とこういう風に意地の張り合いが生じて話は前に進まず最終的には双方黙り込んでタバコに火をつけたりするのである。

 

しかし私も根っからの意地悪というワケではなく、その浅はかなやり口が気に入らないだけであり、これが巧い話し手に対してはまんまとその欲望に乗っかるのであり、それはとても楽しい気分であることも付け加えておきたい。

たとえばこの間友人から聞いた話なんかはそうである。

 

「めっちゃどうでもええ話やねんけどな、昨日の夜にみた夢がなんかすごい頭に残っててさ。」

「うん。(夢の話か。夢の話ほどどうしようもない話題もそうそう無いものだけれども、まあ今現在取り立てて話すこともないから少しく聞くとするか。)」

「一言で言うとそうやな、人間の弱さ果敢なさを受け入れつつも、それでも前を向いて進んでいく人生の素晴らしさを描いたこの夏イチバン、抱腹絶倒のクライムサスペンスって感じの夢なんやけどな。」

「え、なにそれ?(夢の話をする前振りでそんな映画のレビューみたいなこと言う?これは新しいな。しかもレビューから察するにかなり振り幅のありそうな話なので長尺が予想される。が、そこまで言うなら多少長尺であっても聞いてみたいと思うのが人間の性というもの。此奴、やるな。)」

「あんまり長くなってもアレやから結末だけ言うと、相棒って設定の美しすぎるロボコップが「私はもう前みたいに気軽に飛行機とか乗れない。保安検査の手続きだけで四、五時間かかる。」て言うて泣いているのを慰めてるところで目が覚めたんやけどね。」

「えーなにそれなにそれ!美しすぎるロボコップ?もう長くてもいいから最初から話して!(畜生!キャッチーなワードで心を鷲掴みにしやがって。もうみなまで話せ!)」

 

とこのようにまんまと術中にハマることも当然あるワケである。

 

もしもあなたも「教えて教えて!」を欲しがるタイプの人間であるなら、「そう、アレは僕の秘密の二段構えが功を奏したんだったな。」みたいな、ただただ謎を植え付けるだけの浅はかな作戦ではなくして、上記のように少し凝ったストーリーテリングの方法を考えて、そしてこの私から「教えて教えて!」を引きずり出してみてはどうだろうか。