
お前はお前だ。
これは俺が俺に対して言っている。
お前はお前だ。
つまり俺は俺だ。
その俺とやらは、生まれてこのかた唯の一度も他人様から"かわいい"や、それに類する賞賛の言葉、ルックスをモテ囃し立てる系の言葉をかけられたことの記憶の無き俺なのや。
それの何が悪いのやと嘯いた日々は、青春のとおの(遠い)昔になりを潜め、今俺が欲することには、英語で言うところの"cute"という意味でこの世からモテ囃されたいや、ということなのや。
それがたといこの世から嘲られ、笑われることであろうとて、当の俺は全くこれを意に介さぬ。というのは、極最近俺の頭蓋にいかづちが響き渡るかの如くプルンっと、プルンプルンっと閃いてなのやけども、これは灯台下暗しというかなんというか、忘れていた一手があるということに気が付いたということなんですけれども、それというのが、
「あれ?これってアレですやん。自分で自分のことを、つまり俺が俺のことを"かわいい""キュート"とプロモーションしていくことで周りの者共も意識が変わり果てていかせることができんでもないのではないか。」
思い立ったが吉日やねと俺は、この神が与えて下すったハッピネスなアイデアをすぐさ実行に移すことにした。
しかし、いきなり「俺とは、なんて可愛くキュートなんやろ。ええ記念になったわ。」などとほざき出してもなんのプロパガンダにもならないどころか、ヤベー奴のレッテルを貼られる可能性が無限大なのでここはさりげなく、ささやかに己が可愛さキュートさをアピールしていった方がいいと思われる。
とちょうど前方から仲間内で随一のスピーカーである小男が歩ってきたので「やぁ!」とサツを入れつつ其奴の元へと駆け寄る。が、この時実は既に、俺の作戦の火蓋は切って落とされて煮込まれて燻られていたのだーる。
奴へと徐々に近づいて行くそのすがら、この国土交通省がええ仕事してるきわめてフラットなアスファルトの地面で俺は己のある全てのビックリしたなぁ感を動員しつつ「あなやっ!」と叫び躓き、そのまま前につんのめったついでに軽く屁をこいてしまったけど態勢を崩して小男の目の前の地面に四つん這いになったのであるよ。
小男は仲間内で随一のスピーカーであると同時に、ごっつ優しき者なので当然この哀れな俺を、小作人の悲しみの化身の俺を心配し声をかけてきてくたのだ。
「おやおや、この何の起伏もない地面ですっ転びよってからに。小作人の悲しみの化身みたいになっておるではないか。怪我はないか?今やったらマキロンと絆創膏は持ってるけども。」
かかりやがったな。この小作人の悲しみの化身に見えている俺は実は貴様を謀っている策士の群雄割拠(?)なのであるよ。
そう、何の段差も起伏もないこの地面で躓きつんのめったのは当然俺の策略であり、まあつんのめった際にちょっとリキはいっちゃって軽めの屁をひってしもうたのは自分でもビックリしたんけども、しかしこうして小男に心配されている時点で策の八割はキマッてるんですわ。
俺は俺を心配する、心配して下さってる小男の顔をその四つん這いの姿勢のまま見上げて、そして満面の笑みを浮かべてこう言ったのさ。
「あぁ、ごめんごめん。こんなフラットな地面ですっ転びよってからに俺は。そなたをこの道端で偶然見かけて勢い駆け寄ってみればこの様よ。まぁしかし、こういうドジなところがこの俺の可愛いくキュートなところであるよなぁ!」
そう言いつつ砂を払いながら立ち上がる俺を小男は、優しい眼差しで、ユニセフの人の眼差しでもって見つめていらっしゃいましたのでダメ押しでもう一言、「可愛いとこ見られてしもうた。」と独り言のように呟いておきました。
この作戦を実行した俺に果たして外道の瞬きなどと言いがかりをつけられる者は存在するだろうか。
誰だって多かれ少なかれこういった自己プロモーションの類いは日常の中で行なっていると俺は断言や。服装にこだわるのなんてその最たるものではないのかい。服装かて話し方かて自己プロモーションなのや。みんながみんな偶像で虚像、みんな朋輩の仲良しの惑星やがな。
とまれかくまれ、見事すってんころりんプロモーションに成功したこの俺であるが、あれから数日、最近仲間内から若干ではあるが可愛い奴扱いされているような感じを感じる。周囲の目線も今までなら、経年劣化でボロボロになったトタン屋根を見るような目で俺を見ていたのが、今ではハクビシンやヌートリアのような小動物を見るときのあの優しきと慈しきな眼差しでもって俺を見るんですよ。
それに最近では、"あなるっぺ"という素敵に可愛いアダ名で俺のことを呼ぶ者も多く、これはもう俺に対し直接「可愛いね、キュートだものね。」なんて言ってくる者が現れるのも時間の問題なんじゃないかなって。そして俺は生涯初のその誉れを全身にて浴び。