ガチガチの巨人

 

人は勝手である。

というのも、人は他人を見た目で判断するもので、そして見た目から中身まで想像して、「嗚呼、麻の素材を中心としたコーディネイトにフチなしの丸メガネ。全体的な印象は生成り色。たぶんこの人は優しいな。目が優しいもの。これは木漏れ日の人であるよな。家具には白を基調としたシンプルなものを好み、素材を生かした木の温もり溢るる家に住んでいて、無農薬野菜に詳しいことだろう。」となにやらひとりごちるが、しかしそんな妄想が外れ実はギャンブル狂で万引きの常習者、家はプロパンガスでしかも実家で、部屋中にちん毛が落ちているし付き合う女も風俗関係の者ばかり、みたいな人間であった場合自分で勝手に決めつけた"此の人"像とのあまりの乖離になぜかムカつき、あまつさえチョー嫌いになってしまうというのだから、ほら、やはり人は勝手ではないか。

 

勝手は勝手でも見た目で「嗚呼、アナル、此奴はアナル人間であるな。なぜなら金色に染めた髪は手入れを怠っているのかバシバシで、長いこと染め直していないのだろう、ほら、プリンになっとるがな。そしてスエットにキティちゃんのサンダル。全身ドンキで揃えたのだね。こんな奴ぁきっと少年院に入っていたし母子家庭だし中卒でそしていずれデキ婚をすることだろう。腰に筆記体の刺青が入ってる。そうに決まってら。」と判断したにも関わらず実は彼女は此の世の光としか言いようのない素晴らしい人間性の持ち主で、給料のほとんどを自動引き落としでユニセフと日本赤十字に寄付しているといった人間であった場合、見た目で減点していた分良いところを知った瞬間に揺り戻しで鬼の加点具合となりいっきにチョー好きになるというケースもある。

 

とはいえ、ある程度見た目どおりの中身であってほしいという願望もわからんではなく、私だってゴリラは実はごっつ臆病であるということを聞いたときちょっぴり切ない気持ちになったという経験もあることだし、だので見た目に中身を寄せる、もしくは中身を見た目に寄せるということにもうちょっと気を使ってもらっても此方は全然大丈夫であるということを理解していただきたい。そうやってお互いに歩み寄ることで色々とスムーズにいくのだから。

 

そういうところで言うとやはり、巨人は巨人らしくのっそりと、そして堂々としていてほしいというのが私の今一番熨してきてる願望であるのだ。

あ?そらどうゆーことやねん、と貴方は感じたことだろう。しかしそれは当然だ。なぜならこの哀れな道化者は今からその巨人がどうのこうののことを説明するのだから、未だ説明を受けていない貴方がそのように混乱し狂熱と焦燥でもってこの哀れな道化者、つまり俺を責め立てるのは糾弾するのは、これは当然なのだ。理なのだ。しかし早急なので。

 

巨人とはまず、巨人のことである。決して某下品なスポーツ競技のプロチームの愛称のことではない。

そう巨人は巨人。読んで字のごとく巨きな人のことである。そしてこの場合、巨人とは身長が15m以上ある人のことを指す。そんな奴ぁいねぇよ!と貴方が思うのなら、貴方はよほどのアホたれで、そんなアホたれは一生巨人に出会うことは出来ないし、また、貴方自身も巨人になることは出来ないのである。想像力の翼を失くした人間は、あとは無様に地面に叩きつけられるのを待つのみで、それは熟し過ぎた柿が木から落ちて爆散する姿を想うのに似ている。

 

そんな巨人であるが、身長15m以上とあれば、さすがにサカゼンとかでもサイズの合う服は売られていない故当然常に全裸であるし、一応のマナーとして腰回りだけは布で覆ってはいるものの、それだけ巨大な布なら風を孕む量も半端では無く、巨人は日常的にちんチラを繰り返している為、もはや人からいくらチンコを見られようと恥ずかしいと思わなくなってきており、今はもう風に揺られてぶらぶらと。

 

そんな巨人がどうだろう、ガチガチに緊張していたら。

「お、おで、ぼ...ぼ僕、僕巨じ、きょ、巨人やねん。ふ、服こそ着てないけど、あの、友達、仲良くなって、友達になろ。」

貴方は思ったのではないか。なんでそんなデカイのに緊張しとんねん、と。そんなけデカイならまず武力で負けることもなかろう。少々の無礼も赦されるハズだ。なのに貴様はなぜかようにガチガチに緊張している。巨人だろ。もっとゆったりとした語り口でのっそりとしといてくれや!

ほら、また見た目で判断した。

しかも今度は服装や髪型から判断したのではなく、ただ図体がデカイというだけで、こんな巨人みたいなもんはまるで大雑把やさかいに緊張なんてしないのだろうな、と決めつけた。

 

人であることの業とは、かくも深いものなのかい。