
おじさんの身体には実は、外国人スパイ(詳しくは教えてくれないが、中国との噂)に埋め込まれたチップが入っていて、そのチップでもう毎日当たり前のように洗脳電波をバリバリに浴びせかけられているというのだから驚きだ。
しかもおじさん曰く、おじさんが埋め込まれたチップには記憶操作の機能も備わっているらしく、おじさんは日々(24/7)チップの記憶操作によって記憶を操作されている故、幼少期の記憶なんてバスバス忘れていってるし、なんなら相手方(つまりチップを埋め込んだ側)の都合のいいようにガンガンに記憶を操作されており、その感想としては「これはもう、完全に記憶を操作されている。私の記憶は操作されていて、夢幻の如くなり。」といった感じであるそうだ。
しかしおじさんはそんな外国人スパイの洗脳電波や記憶操作に臆することなく、日々自分のやりたいことをやり、したいようにして生きさらばえているというのが私がこのおじさんを尊敬します、っていう最もインポータントなところなんです。
おじさんはとにかくアウトドア派なので、家の中でじっとしているということが出来ないタイプで、大きなラジカセを脇に抱えて街を練り歩くことを良しとしていまして、ラジカセからは今日も大音量で名曲"野に咲く花のように"が無限のループで流れさせられておりまして、これはおじさん曰く「チップを埋め込まれた者たちのパブリックイメージの向上のためにこういった活動をしているよ。」とのことでした。
しかしこのポータブルな時代、飽食の時代にあっておじさんは何故かようにバカでっけぇバハサでっけぇラジカセを額に汗して抱えて独自のアジテーションで世を闊歩っぽしてらっしゃるのかというと、それについてはおじさんには確固たる持論があるそうで、私は或る夏の日、暮れなずむジャスコの屋上ミニ遊園地のベンチでおじさんにそのことを質問したことをまるで昨日のことのように覚えています。なぜなら、昨日のことなのですもん。
おじさんはカップの自販機でカルピスソーダを買い、それを飲みつつやおら話し出してくれました。
「僕らみたいなアダマ(頭のこと)にチープ(チップのこと)埋め込められてるもんはね、常に電波を受けてるのよ。それは大陸からであったり、人工衛星からであったり。そこへきてこのラジカセはね、僕が受けされさせられてる電波をちょろっと代わりに受けてくれて、そんでこのテープへ録音されてる"野に咲く花のように"を通ってこのスビーカ(スピーカーのこと)からいでよるワケなのや。それで悪い電波、ソドム(悪行)の電波が浄化されて、この島屋一号機(?)がね、平和の架け橋にしてくれて、大陸と、または人工衛星と。それが目的だね。このカルピスはシュワシュワのやつが入ってるやつだな。カルピスにこんなヴァージョンってあったけ?シュワシュワーのやつのヴァージョン。」
言いたいことは分かる。
その後語ってくれた話によるとおじさんは、外出時にラジカセを抱える前は電波による記憶操作で中華料理にしか興味が向かなかったり、映画「もののけ姫」を日に4回も観るという、本人の意思とは関係のない奇行に悩まされていたそうだが、ラジカセを抱えるようになってからは節約のためにビニール傘で自販機の釣り銭口をチェックしつつ歩いたり、全く自覚が無かった肩こりが、更に自覚が無くなったりと、これはもうこの世の春としか思えないような幸せなエモーションに包まれて日々を過ごせているそうです。
そんなおじさんの最近の悩みは、ラジカセに使う単二の電池があまり売っていないこと。
やはり最近は何でもかんでもUSBがどうとか、リチウムイオンがこうとかで、わざわざ電池を使うという局面、炎の局面が少なくなってきていることもあり、電池のサイズを豊富に取り揃えている小売店も少なくなってきているそうです。
小売店のみなさん、ビジネスチャンスですよ!
電池のサイズを豊富に取り揃えることで、チップ埋め込まれてる系の、電波受信できる系のお客様があなたのお店に大挙して押し寄せます。みんな元気です。