男性ハンカチデュオ

 

私が初めて男性たちのその言葉を聞いた時、聞き間違えかなと思いもう一度聞き直したものです。

しかし男性たちは今度はゆっくりハッキリとした口調で改めて聞き慣れないその言葉を口にし、そして私の反応を確かめるかのように黙りこんでしまったのです。キレてんのかなと思いました。

私が思わず二度も聞いてしまい、にもかかわらず全く理解が及ばなかったその言葉。思うにその言葉を聞けば私だけでなくみなさんも私と同じようなことになるハズです。

だって聞いたことがないでしょう。"男性ハンカチデュオ"なんて言葉。

 

男性たちの一人が気さくな感じでハンカチを振りながら語り始めました。

 

「まぁもともと仲良くてよく一緒に居たってのはあるんですけど、なんかこう僕たちの関係性を周りとは違う、ワンランク上の関係性にしていこうってなったときに、カップルとかアベックとか言い出したらそれはまた話が違ってくるぞと(笑)。じゃあどうしようって話し合いをしていくうちに、自然とデュオってゆう形態?グループ?って発想は出てきて。まあしかしただ単に「デュオです。」って言うだけでは僕たちの関係性のことを世間に知ってもらうにはインパクトがないねと。だったら僕はいつもハンカチを持ち歩いてるのだからハンカチデュオにしようよと。そんなデュオ聞いたことないからパンチあるぞと。そっからですね、男性ハンカチデュオをアピールし出したのは。」

 

こいつメチャメチャよう喋りよるな、なんてことは微塵も思わずに私はしばし男性の話を噛み砕くベクふむふむと宙に視線を泳がせておりました。

 

そうして思案しているうちに、私のなかにこの男性ハンカチデュオに対するひとつの疑問が湧いてまいったのです。それは"こいつらは何を言っているんだ。めちゃめちゃアホなんとちがうか。"ということではなくて、"デュオということはやはり歌を歌っているのだよね。"ということです。

気を抜くとかなり失礼なことを口走ってしまいそうなので、私は努めて慎重に男性ハンカチデュオに対して上記を質問してみました。

すると今度はハンカチを持っていない方の男性がこう答えてくれたのです。

 

ハンカチを持ってない方の男性は、待ってましたとばかりに私の質問に対して気さくに答えてくれました。

 

「あー、その質問ね。たしかにデュオ=二人組みの"歌手"みたいな意味なんですよね。それに関しては僕たちも認知してまして、二人で「どうする?歌っとく?」みたいな話もしたんですけど、そもそもそれ以前に僕たちの認識としてのデュオって、''片方の人がなんか持ってる状態''のことをデュオって呼ぶものなのだろうと思ってたんですよね。例えば男性フォークデュオなら片方の人がギター持ってたり、男性R&Bデュオなら片方の人がRでもう片方の人がBなのかなとか、デュオってそういうものなのかな、みたいな。じゃあ君はハンカチ持ってんじゃんって。確かに思い返せばデュオって呼ばれる人たちって全員歌うたってますけど、それってそんなに大事なことなのかなって。仲良し同士の片方の人がなんか持ってればそれがデュオでいいじゃんって。そう考えるようになってからはデュオとしての活動により一層力が入ってきて、なんか結果的に歌うたってなくて良かったねみたいなことはよく言い合ってますよ。」

 

いるいる、こうやってなんやかんや理由をつけて自分たちが間違った認識をしている、またはしていたことを一向に認めないプライドだけやたら高いタイプのヤツら、なんてことは全く思わずに私は、なるほど、たしかにデュオって片方の人がなにか持っている場合が多いな。まぁギターですよね。もしくはピアノね。いずれにしても楽器ですよね。なぜならデュオとは歌う人たちのことだから。

と思ったけど、でもまぁ男性たちの認識からすると片方の人がなんか持ってたらデュオで良しってことらしいので、しかしだったらコンビでも良いのではと提案したところ男性たちをずっと側で見守ってる人からこう言われた。

 

「わかりますよ。コンビってのもわかります。ただね、彼らのことをずっと側で見守ってる私の立場から言わせてもらうとね、彼らのスタイリッシュさに果たしてコンビという呼称がしっくりくるのかってことなんですよね。やっぱりパッとみて二人ともそれぞれ華があるし個性もあるし、これコンビって器に入れるのは難しいんじゃないかなって。なのでまぁ、彼らの話し合いに私も立ち会ってたんですけど、やっぱりデュオの方がより彼らのことを知る上で理解されやすいんじゃないかなって。それでまぁ先ほどもおっしゃってましたけど、歌こそ歌わないけどデュオなんですよね。その辺はもう受け取る側の解釈にお任せしてるのですけれども。」

 

あっそ、ほな死ぬまでやっとけアホども、と思いそうになる自分を必死に抑えて私は、同じ人権を持つ者が話したこととしてしっかりと上記の講釈を噛み締め、そして嚥下しました。

 

今後この世界初の男性ハンカチデュオは更に世間からの認知度を上げていくベク然るべき活動をやっていきたいと言っておられましたが、なにぶんハンカチだけが武器となると活動の幅も割と狭いということにようやく気づき始めた男性たちは、今はとりあえず途方に暮れる日々を送っていらっしゃるそうです。

 

 

もしあなたが街のどこかでこの男性ハンカチデュオを見かけることがありましたら、捨てようと思ってた家具とかを是非譲って差し上げてください。回収してくれます。そういうバイトをしてらっしゃるそうなので。