絶対に死なない男

 

「この世に"絶対"は無い。」

 

それを聞いて男は思った。

 

「いや、この世に"絶対"はある。」

 

するとこう言われた。

 

「いや無いよ。この世に"絶対"は無い。どんな物事も常に変化し続けてるワケなので、そんな不確定要素だらけのこの世に"絶対"なんてものは無いのさ。どんなものにでもプリンッて急に変化する可能性はある。君だって明日目が覚めたら急にライオンになっている可能性はある。あ、でもあれよ。"絶対"は絶対に無い、とか言うのはナシよ。」

 

男は思った。ライオンになっているのは悪くないなぁ。しかしすぐに言い返した。

 

「でも俺は絶対に死ぬ。」

 

しかしまたすぐに言い返された。

 

「いや分からないよ。これから先医療が発達して不老不死の薬が開発されるかもしれないし、もしかしたら君自身が気付いていないだけで、君は死なない体質かもしれないし。ほら、甲殻類の一部には、理論上は不老不死のヤツとかいるじゃん。君も実はそういった特徴を持っていてこれから先一切歳をとらないし死ぬことも無いかもしれないよ。だから絶対に死ぬかどうかは分からないんだよ。」

 

男は「こいつスゲー喋るなぁ。」と思いながら言った。

 

「なるほど。ならば死なない。俺は絶対に死なない。」

 

「いや死ぬ。そりゃ死ぬよ。生きとし生けるものはみな最後に死が待ってるのよ。そりゃそうでしょ。今まで生きてきて不死身の人間に出会ったことある?ないよね。でも今あなたは思っているでしょう。「どっちやねん。」と。でもそしてどっちやねんとなる時点でやはり"絶対"ってものは無いのだなとあなたは無意識のうちに諒解してることになるんですよね。これぞメンタリズムなり。いやわからんけどね。」

 

「てゆーか、あなた誰なんですか?」

 

「私?私こそはお店でフランスパンを買って紙袋に入れてはもらうもののほとんど丸出しの状態で家まで持って帰るタイプの人間だ!じゃ、帰りますね。フランスパンを持って帰らないといけないので。"絶対"は無いので。よろしく。」

 

 

「やっとどっか行ったな。」男は謎の人が去って行った方向を少し見やり、また歩きだした。