ロストタイム・イン・ザ・ラナンキュラス

 

ある朝、いやある昼起きると私は、知らないスーパーでレタスを持ったまま呆然と立ち尽くしていたのである。

昨晩は多少お酒を飲み過ぎたものの、ちゃんと家のお布団に入って寝た記憶はあるのに、なぜこうして今、私は知らないスーパーでラナンキュラスを持って呆然と立ち尽くしているのだろか。呆然としつつ私は、しばし呆然としていた。

 

なぜこのようなサイキックなシチュエーションに私は今いるのか。考えらるる理由は3つある。

まず、自覚症状はないが、しいて言うなら今まさに自覚したが、私は実は夢遊病者で、これまでも寝ている間に意識の無いままこうして住み慣れた町、幸せの町を彷徨っており、しかし今日はたまたま夢遊の途中で目が覚めてしまったという説。

もしくは大人なのに頻繁にベビーパウダーをポンポンしていることがベビーパウダーの神の怒りに触れて「おまえみたいなもんは知らないスーパーでラナンキュラスでも持って呆然と立ち尽くしとけ!」と、私に対して神罰を下したという説。

か、もしくはお母さんの前では''ぴっこ''と言うくせに、友人の前では無頼を気取って''ションべ''と言っていることがお父さんにバレて罰として寝ている間に移送されたという説。

か、もしくは南アフリカの黒魔術に詳しい人に対して何か失礼があり、その報復として南アフリカの黒魔術をかけられたという説。

以上がなぜ私がこのようなサイキックなシチュエーションの真っ只中にいるのかを自由気ままに考えた4つの理由である。

 

しかしまぁイキナリこんな状況になってもものの5秒で以上のように冷静に理由を分析出来るあたり、やはり幼少の頃から、ツチノコが目の前に現れた時に3秒で冷静になる方法を徹底してトレーニングしてきた甲斐があったんだなぁ、と改めて自分自身に課してきたスパルタンな日々を思い返し、そしてまた郷愁に浸りつつさて、ここどこやねん。このラナンキュラスはなんやねん。と郷愁に浸ってますので故郷の言葉でポツリつぶやいてみたのですがそんなことでこの状況に変化が現れるハズも無く、ちょっととりあえずこのレタスを棚に戻そ、と棚をみたらあれれ。

ここはお菓子売り場ではないか。

 

とりあえず今は郷愁に浸っているのでここは笑いに厳しい土地の出身者としてひとつノリつっこみでもバチと決めて私は私の中でだけでこのシチュエーションを楽しんでやろうと思いました。

「そそそ、このカルビーのレタスはコンソメパンチ味の横に陳列せればコンソメパンチの袋のベージュ色にレタスの自然な緑色が映えて、あ!え!これがインスタ映えってヤツですよね!スッゲ、これスッゲ。誰か写メ撮って写メ!俺の!ってなんでぃやねん!」

見事に渾身のノリつっこみを決めルンルン気分でレタスを再び棚から手に取り(ここでコンソメパンチを取るというもうひとボケを決めたろかと思いましたが、さすがにひつこいのでやめた)あるべき場所に戻すべく店員さんにレタス売り場はどこかと尋ねた。すると店員は鯉がエサをせがんでるみたいに口をパクパクさせつつ「野菜売り場は突き当たりを右へ曲がったところです。」などとほざきやがった。

「いや、今僕が手に持ってるのはなに?そう、レタスだよね。じゃあそのレタスを戻すべき場所は?え?なんでやねん!なんで野菜売り場やねん!レタス売り場やろ!え?いやだからそれは野菜売り場の中のレタス置き場でしょ?僕が今言うてるのはレタス売り場やで?ちょっと今は郷愁なのでくにの言葉がちょいちょい出るけど堪忍してや。もういっぺん聞くけどレタス売り場は?」

店員さんはさらに口をパクパクさせながら申し訳なさそうに「当店にレタス売り場はございません。野菜売り場のなかにレタス置き場がある程度のしょーもない店なんですわ。」とか言い出すのでこちらもバツが悪くなって素直にレタス置き場にレタスを置いて店の出口に向かって歩き始めた。

 

レタス売り場もないようなしょーもないスーパーとは何という名前のスーパーだろうか、と今出てきた店の看板を睨みつけるベク振り返って驚いたのはなぜかと言うと、なんと店の入り口の上にある大きな看板には赤地に白文字でデカデカと''ラナンキュラス売り場''と記されていたのである。ということはさっき私がレタスを置いたのは、ラナンキュラス売り場の中の野菜置き場の中のレタススペースということになる。

 

レタススペース。

 

レタスと宇宙が繋がる点。「ス」が3つも入っている点。レアな座標。