
大好きな曲なのに、どうしても曲名タイトルが思い出せない時は、ありますよね。
ワンフレーズだけ頭に残っていて、曲名タイトルも聞いた覚えがあるけど、思い出せない時は、ありますよね。
そういう時に、身近な者にこういった曲の曲名タイトルを知りなせんか?とか言ってフンフーンと鼻歌を歌ったりする時なんですけど、そういう時の身近な者のその曲名タイトルを知らない率は7割を超える、超えてゆくと言いますものね。こちらの歌い損みたいになることも多々あります。
しかしどうでしょう。
いきなりこの曲の曲名タイトルを知ってたら教えてくれなさいと、そればかりか突如歌い出されてゆく者の戸惑いと苦悩を、みなさんはどれくらいお考えでございましょうか。
先日こんな珍な出来事がありました。
連れの者とオープンカーでお城を守るアルバイトに向かう途中です。海沿いの美な街道を走っていた時のこと、カーステレオから流れてきた曲に、連れの者がビビッドな反応を示し言いました。
「あなや。これぞあの曲を歌っていたお方の新曲ではないのか。ほら、君の者も知っていることだろう。あの曲だよあの曲。」
私はその歌声にしばし耳を傾けました。とても透な、そして伸な、優な歌声でございます。しかしその曲をどなたが歌っているのかは、正直申し上げて全く存じあげないので、そのありのままを連れの者に伝えました。しかし連れの者はどうしても思い出したいようで、
「あの曲だよあの曲。ほら、
♫キキジョンミジョンミジョンミ~
というあの曲。一緒にいる時に聴いたことだろう。」
という聞きなれない歌まで挟み込んで私に曲名タイトルを思い出すよう急かすのです。
これほどまでに今カーステレオから流れている曲を歌っているお方の過去の曲名タイトルを思い出したいとあれば私も、ええい、乗りかかった船だ、カジキマグロや、ということで、連れの者がその曲名タイトルを思い出せられるよう協力しようと腹を決めらされました。
「その''キキジョンミジョンミ''の曲であるが、言語感から英語あるいは英語から派生したっぽい言語かと思われるが、それに間違いはないか?」
「いやタイ。タイ語。」
連れの者は私の問いに対し失礼なことに、若干食い気味で答えました。
意外な国の登場に少し惑いながら、私は記憶無き記憶を手繰る旅に、その時すでに出させられていたのでございました。
「ふむ。じゃあもう私にはわからぬ。なぜなら私は申し訳ないがタイ人のアーティストをただの一人も知らぬもので、当てずっぽうを言おうにもタイ人の複雑(タイ人はなるべく他人と名前が被らないように子供に対しかなり難な名前を付ける。そして結果だいたいニックネームで呼ばれる。し、改名も幾度となくする。)な名前など偶然に当てることは極めて難しく、まあ今ブアカーオってのが浮かんだのだけれど彼はファイタであり歌手では無いので違うだろう。よって難。」
連れの者ももうさすがに思い出すことを諦められてくれるかと踏んでいたが甘かった。
そう、連れの者には昔からヤケに頑固なところがあり、一度気になるとかなりそのことに対して拘泥する悪癖がある。今回もその手のようだ。
「待て君の者。早まるでないで。キキジョンミジョンミの''キキ''は日本語の''危機''だと思わせられるのだよ。なぜなら私が件の曲のミュージッビデオを観た際、髭面のイカツイおじさんが危機に陥っていたのだから。」
「つまり''危機ジョンミジョンミジョンミ~♫''という曲であるということだな。危機のあとに何らかのジョンミが3回。急いで思い出されないと、ミュージッビデオのおじさんが大変なことになりかねん。」
我々は焦っていた。早く思い出させられなければ、このモヤモヤを残したままでお城を守るアルバイトに臨むことにりますから。
非常に重要度の高いミッションであるため、澄で静な心で城を守らせられたいのです。
その時、連れの者に一筋の記憶の光が差し込んだ。
「あなや。続きを思い出せられたぞ。歌う。
♫危機ジョンミジョンミジョンミ~
日々ゲンミゲンミゲンミ~
知りヒンミヒンミヒンミ~
奈良パッスィパッスィパッスィ~
だ。たしか近畿圏での生活や成長を歌った歌詞であったと思い出せたり。」
なに。そこまで克明に歌詞の内容を思い出せられたとあれば、曲名タイトルが浮かばれることなどもはや時間の問題ではないですか。これで奇な秘な心でバイトに臨むことも無くなられそうでございます。しかし、またもや私の考えは甘かったのです。そう痛感させららたのは、彼がこんなことを言い出したからねす。
「そうだ。もう少しで思い出せられそうだ。今歌わさせられたのがBメロであるから…。」
ななに。危機ジョンミはサビでは無かっただと。
結局ジョンミの迷宮から脱出することができぬまま、我々の乗ったオープンカーは城壁へと差し掛からさせられたのでした