
歩道。さまざまな人がが行き交う、基本的には歩く人のための道。だから歩道。
その歩道の脇によくある植え込み。そこが彼のステージだ。
電信柱の刺さっているちょっと横、横断歩道からもよく見えるその場所で、今日も彼は踊り続けていた。
見た目にはパリとしたスーツ姿で、髪も短く清潔に切りそろえており、貌も取り立てて男前という訳ではないがよく整っており都会的で、これ好きな人はメチャメチャ好きやで、と言わざるを得ない容姿で植え込みの中でスーツの裾を土に汚しながら踊る彼。
彼がいつも踊っている場所は、そこだけ土が踏み固められ草の一本も生えていない不毛の地と化している。
なぜ彼がこんな大都会の植え込みの中で踊るようになったのか。それにはある悲しい理由があった。
悲しい理由があるのだが、まあそれはどうでもよくて、私が怖いなー、怖いなーと感じるのは、都会では植え込みの中で踊ろうが騒ごうが誰も気にしないし平然と社会は回っていくことである。
私の地元で植え込みの中で踊ろうものなら、すぐに近隣の世話焼きババアがよってきて「コレコレ若い人、植え込みの中でのファイナルダンスはやめなはれ。」とすぐに注意され、彼のように土を踏み固めるまで踊り続けられるということは無いだろう。しかし都会は違う。他人に干渉しない。「君よ、植え込みの中でのファイナルダンスはよしなさい。」と誰も言ってこない。彼が、植え込みを踏み固めて踏み固めて、いずれゴルフ場を建設しようとしているとも知らずに。
しかし結局はファイナルダンスを注意してくるような世話焼きババアが住んでいる緑豊かなのどかなカントリーに、ゴルフ場は今日も元気に建設されている。
お前らが小さい球を棒でしばいて飛ばして遠くの小さい穴に入れるという、アホみたいな行事をやりたいがために山は削られ、鳥たちは住処を失い、そこにカントリークラブが出来る。ピヨピヨ、鳥の声はスピーカーから流れている。ピヨピヨ、ピヨピヨ、ファイナルダンス。