世界を滅亡させるドクターひろし

 

ドクターひろしの興奮は最高潮を迎えていた。

というのも、長年の夢であった世界を滅亡させるための人造クローンサイボーグ、''おっぱいブッブル''がついに完成したっぽいからである。

 

完成したっぽい、という風に自信が無いのは、実はドクターひろし、この人造クローンサイボーグ''おっぱいブッブル''(以下、おっぱいブッブル)の製造に幾度と無く失敗しており、ある時はメカ心臓の入れ忘れ、ある時は擬似血液オイルと間違えてコーンフレークを入れてしまい、そしてまたある時は出来上がった顔があんま気に入った感じにならなかった(世界を滅亡させるつもりにしては可愛いすぎた。犬のパグみたいだった)ために廃棄する等、いつもあと一歩のところでケアレスミスをするドクターひろしなので、「起動!」とかいって自信まんまんでボタンを押してもウンともスーとも言わない日々であるため、完成かどうかはあんまり自信を持って言えないのであった。

 

しかし今回はイケてるっぽい。何度も何度もミスが無いか確認し、「いやこれで起動しなかったら逆にどこミスってんの?」と誰彼構わず逆ギレしてもいいくらい完璧に仕上げた。

ドクターひろしは今一度呼吸を整え、おっぱいブッブルを見つめ、ゆっくりと頷いた。

 

「外部依存型生命維持装置解除、そんでメカ心臓スタンドアローンモードに切り替え。そりゃ。うん。確認。」

 

ドクターひろしはおっぱいブッブルに繋がれている管を一本ずつ慎重に外していく。内部メカ心拍数は?オーケー、異常無し。

 

「続きまして循環擬似血液オイル投与。その流れで循環洗浄装置起動。バッテリーオン。そりゃ。はい確認。」

 

ついにおっぱいブッブルに繋がれた全ての管が外された。あとはおっぱいブッブルがヒタヒタに浸けられてる高伝導ジェルに電気を流せば起動するっぽい。いや、必ず起動する。

 

「高伝導ジェルもうちょいヒタヒタに。しました。起動電圧までアップ。スタンバイオーケー。もうボタン押したらいけます!」

 

ひとりぼっちの研究室。ドクターひろしの声と、機械のウィンウィンとした動作音のみが響き渡る。この起動ボタンを押せば、おっぱいブッブルが起動する。この世界を滅亡させるために。

 

ひとりぼっちの研究室。永かったぜ。寂しかったぜ。今日からはふたりだね。世界滅亡、がんばろうね。

 

「じゃ押しまーす。あポチっとな!」

 

バチバチィンッ!強烈な電気がおっぱいブッブルの浸っているジェルに流れ、おっぱいブッブルはその巨体をビクビクと痙攣させ始めたかと思うと、ジェルは一気に蒸発した。

モウモウと沸き上がる蒸気が徐々に霧消し、その向こうには上体を持ち上げたおっぱいブッブルの姿があった。よし!起動成功だ!

 

「オ…オぉ…。」

 

あ!しかももう喋ってる!はやっ!

 

「オ…オオオォ…お…」

 

やがて蒸気が晴れ、今起きました、みたいな顔(今起きたからね)で目をシパシパさせているおっぱいブッブルの姿が現れた。

 

「おはよう、おっぱいブッブル。私がおまえの生みの親、ドクターひろしだよ。よろしくね。」

 

おっぱいブッブルはドクターひろしの姿を認めると、少し困ったような顔をしてもじもじし出した。それは大きな角の生えた悪魔のような顔と、その図体の大きさには似つかわしくない乙女チックな仕草であった。そして口をモゴモゴさせつつこう言った。

 

「オ…ぉ……おっぱいブッブルってぇ名前、イヤなんだなぁ。」

 

なに。

 

ドクターひろしは呆気に取られた。おっぱいブッブルがこの世に生を受けて一発目に放った言葉がまさかネガティヴとは。しかもこの私が三日三晩(断続的にしか)眠らずに考えた''おっぱいブッブル''という命名に関するザックリとしたクレームであったのだ。

 

「お…おでに埋め込まれてるこ、ここうせのう、高性能AIがアレした結果によるところによると、結果によると、''おっぱいブッブル''てナメェ、な…名前は、これバカにされるだなぁ。」

 

いや、バカにされるもなにも、もうその名前で色々とプログラム通しちゃってっから。マジで今更どうにかなることじゃないから。各種メディアにも「もうすぐ私ことドクターひろしは、''おっぱいブッブル''という名の恐怖の人造クローンサイボーグを駆使して世界を滅亡させます。よろしくお願いします。」ってファックス送ってるからね。それを今から全部変えてもらうのってやっぱ難しいし申し訳ないし、今回はおっぱいブッブル個人の意見として自分の名前がイマイチだと思ってる、思ってらっしゃるワケですから、それはブッブル個人で乗り越えていただかないとこれから二人三脚、頑張って地球を滅亡しようねって相方としては信頼関係に若干の不安が残るというか、まぁ取り敢えずおっぱいブッブルって名前はこの私が、貴様の生みの親であるこの私が付けたのだから、そこは納得してもらっていいですか。つーか納得するっしょ、普通そこは。

 

と言いたいのをドクターひろしはグッとこらえ一言、「でも結局はネーミングとかよりも実力の世界やから。」と微笑みながら言うのみに留まったのである。

 

 

ドクターひろしとおっぱいブッブルの世界滅亡計画は、まだ始まったばかりだ。