
忍びの生き方とは、本当に辛く苦しいものなのであります。
我が愚息、清し丸は忍びにしては心根が優し過ぎる。サブカル寄り過ぎる。花を大事にする。部屋に溢るる手作り小物。
この間も「父上。父上も是非、"革を育てる"みたいな考え方を理解して下さい。」か何か言ってきて拙者は答えに窮したのです。
また最近愚息は、冬の忍装束はフェルト生地をふんだんにあしらった、見た目にも暖かいものにしたい。という申し出を、伊賀の忍者事務局に毎日申し出ているそうで、噂を聞いた伊賀中の者から我ら一族は大いに小馬鹿にされております。
「清し丸よ、お主が心根の優しいサブカル好きの男子であることは、拙者も存分に理解しておるつもりだ。あとあれも、将来的には伊賀を抜け、職人がひとつひとつ手作業で丁寧に仕上げたこだわりの革小物を取り扱う雑貨屋さんを開きたいということも、これは理解しておる。しかしだ、今現在貴様は伊賀忍である。現役バリバリの忍びであるのだ。忍びである以上、もっとこう、身体の中に冷たい血が流れているみたいな感じをイメージしてもらって、冷徹な感じね。そうゆう感じで忍びやってる方が結果的に貴様が好きなサブカル方面とのメリハリがついて良いと思うんだよね。あとあれなんだっけ、この間の戦で甲賀を追い詰めたときにやったやつ。」
「忍法"ぽかぽかセーター"のことですか?」
「そう、それ。すごい術だよね。その場にいるみんなにセーター着せちゃうんだもんね。あれどうやってんの?どうゆう仕掛け?敵味方問わず全員温もったよね。「お日様みたいな暖かさだね。」つってさ。ナゴナゴしたもんね。でもね、拙者ら忍びだから。殺らないと。敵は斬らないと。ナゴナゴするんじゃなくて、ニンニンしてズバズバしなきゃだよね。拙者が言ってる意味わかる?」
「忍法"ふわふわドッグ"とかを積極的に使えと。」
「え何?ふわふわドッグ?いやその術もどうかなぁ。名前を聞くかぎりこれまた心温まりそうな術だよね。もっとこう…」
「忍法"下北沢"。」
「いやたぶんだけど違うね。なんかその…」
「忍法"パクチーサラダ"。」
「ちょっと一旦話聞いて。拙者ら忍びは端的に言うとアサシン的なイメージでやってるから。暗殺者的な。だからそのサブカルチックなオリジナル忍法はあんまイメージ的に忍び感が無いというか。火遁の術とか使えるじゃないお主。それもっと使っていこうよ。」
清し丸は「この世にこんなに理解しかねることがあるとは、よもや考えておりませんでした」みたいな顔でもごもごなんか言いつつ拙者の部屋から出て行ったのですが(下がってよしなんて一言も言ってないのに)、これが所謂、反抗期というやつなのでしょうか。