山の神様がくれた水

 

「おとうさん、おかあさん、おはようございます。僕は今日も山の神様がくれた水を汲みにリバーへと急ぎます。」

ソンニョの日課である水汲みはとても山の気候に左右されやすいものであるということが言えるのです。それは雨。それは雪。しかしそんなことでへこたれるソンニョではないということを、ご両親はとっくに知っています。それを見越して、ソンニョに水汲みをさせているのですから。

 

水汲みへと向かう道すがら、ソンニョはシマリスさんやトンビさんに毎日の挨拶をします。しかしそれはソンニョの見ている白昼夢、実在しないシマリスさんやトンビさんなのです。しかしそんなことでへこたれるソンニョではありません。それを見越して挨拶しているのですから。

 

「やあシマリスさん。どんぐりの調子はどうだい?おいしい?そのどんぐりがおいしいのには理由があって、そのどんぐりは山の神様がくれたものであるからおいしいんだよ。もしマズかったとしたら、それもまた山の神様の責任なんだから、僕にクレームをつけることはやめてもらっていいかな。だからシマリスさん。明日も今日と同じような日を過ごせると思ったら大間違いだよ。人生、失礼、シマリス生もそんなに甘くはないのさ。」

 

「やあトンビさん。旋回の調子はどうだい?いい風きてる?その風を吹かせているのは誰かというと、それは山の神様が吹かせているんだよ。でもたまに「あ、これ旋回どころの騒ぎじゃねぇな」ってぐらい風が強い日もあるよね。しかしそれもまた山の神様が吹かせているのです。かといって風の強い日に旋回がうまくいかなくても山の神様に文句を言っちゃいけないよ。だって同じように強い風が吹いたとしても悠々と旋回を続けるトンビだっているんだから、自分の技術の無さを人の、失礼、神様のせいにするなんていうのは世が世ならソッコーで火あぶりになるのだから。これがホントのトンビの丸焼きや!焼き鳥や!今言った面白いことは他で言ってもいいよ。その代わりちゃんとソンニョが考えたって言ってね。あ、あっちにおいしそうなシマリスがいたよ。」

 

そうしてサツ入れを済ますと気が付けばリバーは目の前です。家から持ってきたミニミニポケット水筒に山の神様の恵みである水をなみなみ注ぎます。これでまんまと仕事は終了です。ソンニョは今日もこの難攻不落のミッションを無事に済ませることができた自分をほんの少しだけ誇ります。

 

「この仕事してて一番楽しいのはこの瞬間やな。この瞬間のために生きてる。そう言い切ってもええのや。」

 

そうしてミニミニポケット水筒をフリフリしつつ、家までの道を鼻歌を歌いながら帰ります。

行きで会ったシマリスさんとトンビさんですから、当然帰り道にもいるはずですが、そこはソンニョの見た白昼夢、実在しないシマリスさんとトンビさんだけあって、帰り道にはその姿はございません。あるのは春の風に揺れる、一輪のたんぽぽのみなのでした。

 

家に帰るとソンニョは、ラジオで都会の音楽を聴きます。音楽を聴きながら最近編み出した”山の神様のダンス”を踊るのです。お昼どきになってお母さんに無理やりやめさせられるまで、このダンスは続きます。踊り疲れたときに飲むのはもちろん、山の神様がくれた水。そう、ソンニョは自らのダンスの追求のために、毎朝水を汲みにリバーへ足を運んでいるのです。正確には足を使ってミニミニポケット水筒を運んでいるのです。

 

最後にソンニョの夢を聞いておきましょう。やはりダンサーになるというのが第一希望なのでしょうか。

「夢ですか。たくさんあってどれかひとつに絞るのが難しいってのが正直なところなんですけど、まぁこんな世の中なので、安定した職業に就きたいなとは常々考えておりますね。国の仕事がしたい。そんな幸せもアリだなって。」

 

大自然の中で暮らす割に意外とシビアな視点で物事を考えているソンニョ。あなたが今後引っ越した際、転入届を受理してくれるのは、もしかしたらソンニョかもしれなせんね。