人のふり見て馬太郎

 

おいしいと評判のラーメン屋にみんなで行った際、ひとりだけラーメンではなく、特製チャーシューカレーとやらを注文する。

 

みんなで宅配ピザを取ろうとなった時に、ハワイアンミックスみたいな、トッピングにパイナップルが乗ってるものを選ぶ。

 

「好きな四文字熟語なに?」という話題の時に(なんやその話題)、「あ、自分三文字熟語でいいですか?克己心。」などと言う。

 

「お前の妹、俺にめっちゃシナ作ってくるんだけど。シナを。」という、旧い表現での謎のアピールをする。

 

他にも色々とあるが、上記はすべて人のふりを見ない馬太郎という青年の、なんかヴンッ!ってなるエピソードの数々である。

 

馬太郎のすごいところは、周りの人間がいくらヴンッ!と、時には本人に聞こえるくらいの声でヴンッ!となっているにも関わらず、馬太郎本人は常に明朗快活、あまり表情が豊かな方ではないが、ストレスフリーに、伸びやかに、いつもこの世の春みたいな心持ちで日々を過ごせているところである。

 

馬太郎はなにか、人に気を使わせる能力みたいなものがあり、馬太郎に対してなかなかの文句があっても、なぜかそれを言わせない、言う気にならないという一種の対人バリアみたいなものを持っているのでありますけど、そしたらそんなヤツと交流することしなければ良いのでは?とみなさまは思うでしょうが、不思議なことに馬太郎には何か人を惹きつけるパワーみたいなものがあり、馬太郎がいないところでは、みな口々に馬太郎に対する文句を言うていたりするのですが、ひとたびそこへ馬太郎が現れるとなぜかみな馬太郎に気を使いはじめ、しかし馬太郎は自分が周りのみなに煙たがられていることなど知る由もないので、またぞろ明朗快活に、時に迷惑をかけながら「楽しいですね。みなと一緒にいると楽しい。ちょっと君、俺は今楽しいので、楽しいままでいたいので、その楽しくなさそうなことは君に頼んでもいいかな。別に俺がやってもいいのですが、君はちょっと暇そうに見えるのでよかったらやってくれないかなと思ったんです。いい?いいの?ありがとう。」みたいな振る舞いをしているのでした。

 

極稀に、馬太郎に対し、仲間内で一番の鬼っ子的な者が「おい馬太郎よ。貴殿の最近の振る舞いには目に余るものがある。口に出さぬだけで仲間もみな迷惑しておるのだ。少しく態度を改めよ。」なんて具合に果敢にアタックしてみるのですけど、馬太郎はキョトンとした様子で「え?なになに?迷惑ってなにが?具体的に言ってくれれば、そこは直すように努力するので言っていただいていいですか?」みたいなことを言いつつ若干泣きそうになっているため、馬太郎を責めた側がなんか悪いみたいになってしまうのである。

 

また馬太郎は組織内での自分の位置取りが非常に上手く、常に”真ん中よりちょっと上”くらいの発言権のあるポジションにある。これがやっかいなところで、馬太郎に対しまともに意見できる人数は最小限に留めておいて、尚且つなにかあったときに責任もそんなにとらなくていいという絶好のポジションを本能的にキープできる、馬太郎の持つ一種の特殊能力である。

 

 

そしてカレーがめちゃくちゃ好きな馬太郎に「馬太郎さんの一番おすすめのカレー屋さんってどこですか?」なんてきいても「やっぱり家のカレーが一番好き。」というクソみたいな答えしか返ってこないので、その辺も注意されたい。