
平成の名医と言えばやはり、私立恥ずかしがり屋病院の外科医、ドクターシャイということになるだろう。
ドクターシャイがなぜドクターシャイと呼ばれるかと言うと、ものすごいシャイだからそう呼ばれているのであるが、本名もシャイ田恥平と言い、ご両親の「ものすごくシャイな子に育ちますように」という願いをパーフェクトに叶えているというのがドクターシャイの隅に置けないところだ。
ドクターシャイといえば、診療の際は患者の向かいにベテラン婦長である永田さんを座らせ、自分は永田さんの肩の後ろから顔を半分だけ出して(もちろん目は一切合わせない)問診するという「ドクターシャイ、肩越しの問診」が有名であるが、そもそもドクターシャイから診察を受けられる患者というのが、これはかなり限られており、まず若い女性はドクターシャイの診察の一切を受けることが出来ない。理由はもちろん「恥ずかしいから」である。
「初めて会ったうら若き女性とお話しをするなんて考えられない。姿を一切見られない。なんなら"女性"という単語を発するのも恥ずかしい。申し訳ありませんが、当院では若い女性の患者様への診察は行なっておりません。満70歳以上の女性のみ診察を承っております。但し、満70歳以上の女性とはいえ、最近流行りの美魔女みたいな、ぱっと見では70歳以上と思えないような若きルックスをお持ちの女性も、これは満65歳以下の女性同様、診察を行うことはできません。私の言う満70歳とは、もうお爺ちゃんでもお婆ちゃんでもどっちでもええ、みたいな、ジェンダーレスなお年寄りのことを指します。髪が肩にかかっているのも、なんやったらアウトですので悪しからず。」とはドクターシャイの弁です。
また、男性であっても恐い雰囲気の方、金髪の方、服装やアイテムの一部にスカルやドラゴンのモチーフがあしらわれているモノを着用して来院された場合は診察を行うことができません。なぜならドクターシャイは弩級の恥ずかしがり屋であると同時に、弩級の恐がりや屋でもあるからです。
「男性の方であっても、学生時代に常にクラスの中心にいたような、明るく活発な方の診察はお断りしております。テニスサークルに入っていた方や、一度でも仲間とキャンプへ出かけたことのある方への診察もお断りしております。私が言いたいのは、アクティブな雰囲気をお持ちの方の診察はお断りさせていただくといくことです。また、金髪の方は恐いので診察を行えないことはもちろん、満40歳を越えて髪を黒以外の色に染めている方の診察もお断りしております。茶髪とか。なぜならそう言った方は厚顔無恥で我が強く、自分という存在への自信に溢れ、強欲で美意識が低く、またあらゆる方面においてセンスの無い人間である場合がほとんどだからです。そういった方に対しても恥ずかしを催すのかというとそうではなく、医者である私がこんなことをいうのはいかがなものかと思いますが、私には「アホは伝染する」という持論がございまして、これはどういうことかと言うと、アホと関わることによって、こちらもそのアホさに感化され、知らず知らずのうちにこちらまでアホになってしまうといったもので、私は自分で言うのもなんですが、非常に優れた知能と智慧を有しておりますので、アホと関わってその知能と智慧が毀損されてしまっては堪らぬので、仕事とはいえそういったアホの方々とかかずるのは避けたいのです。」
上記は、ドクターシャイが私立恥ずかしがり屋病院へ就職する際、院長であり父親でもあるシャイ田恥ノ介へ送った手紙を一部抜粋したものです。
この他にも、"ドクターシャイが恥ずかしがるから"という理由で診察できない患者様の条件はたくさんありますが、その辺のことはドクターシャイの著書「恥ずかしいから診ないんだ!~ドクターシャイ、暁の総回診~」に詳しく記されておりますので是非参考にしてくださいね。
最後に、ドクターシャイの診察を幸運にも受けられる条件下にある方々に、ドクターシャイの唯一の難点をお伝えしておきましょう。
ドクターシャイは患者様の余命を数週間単位の誤差のみで把握することが出来、尚且つ余命から逆算した痛みや苦しみの少ない終末医療"サヨナラの方程式"の権威であるところはすでに有名です。それのなにが難点やねんこらボケどつき回すぞと思うのはあなたがアホゆえの早計で、前途の通りドクターシャイはアホは診察しないのでそもそもおまえみたいなもんには関係のない話ではではあるのですが、聡明な方の為になにがどう難点なのかを説明いたしますと、ドクターシャイはかなり正確に余命を把握出来るにも関わらず、「余命を告げるのが恥ずかしい」という理由で余命宣告をしてくれないのだ。
しかしそんな理由で患者様やその家族様が引き下がるはずもなくベテラン婦長の永田さんの肩越しにモジモジするドクターシャイに問い詰めたりするのですが、そういった時も「人はいずれ必ず死ぬ」とだけ言い残してすぐにバックヤード的なところへ引っ込んで行ってしまうのです。そして残されたベテラン婦長の永田さんが「なんとなく治療が楽になってきたな、と思ったらもうすぐ死ぬと思っていただければ。」なんて苦笑しつつフォローを入れるのです。
しかし、それでもいいからドクターシャイに診てほしいとおっしゃる方が沢山いるあたり、ドクターシャイはやはりモノホンだということの証左なのではないでしょうか。
追記になりますが、ドクターシャイは今、ベテラン婦長の永田さん引退後の診察の方法について様々な研究を行っております。
なかでもドクターシャイ的に一番いける感が強いのが、患者様との間に衝立を立て、その向こうから腕に装着したパペットをひょこっと出して診察する方法、「ドクターシャイのセサミストリート」です。この方法が確立されれば、もしかしたら老若男女問わずドクターシャイの診察を受けることが出来るようになるかも知れません。そうなればこの国の平均寿命は更に伸びることになるでしょう。
楽しみですね。