大尻と小尻②

大尻と小尻②

やっとのことで室の出入り口へとたどり着いた大尻と小尻。しかしその時である。この室の名物でもある、天井から吊るされた巨大な妖怪尻挟み男のオブジェのワイヤーがブツリと音を立てて切れ、二人を目がけて落下してきたのである。ふたりはその場から動くとができず、精一杯に体を丸めて防御の姿勢をとるのであった。

 

尻が小さく体も小さい小尻は、幸いオブジェが直撃せずに済んだが、尻が大きく体も大きい大尻は、なんということか、妖怪尻挟み男のオブジェの尻を挟むことに特化した部分に自慢の大尻を挟まれてしまっているではないか。いくらオブジェとはいえ、妖怪尻挟み男の尻を挟むことに特化した部分に尻を挟まれては、普通の尻の人間でもヨユーのギボナップ(ギブアップ)系の案件である。ましてや大尻ほどの大尻とあってはひとたまりもない。しかもオブジェは総重量700kgもあり、いくら力もちの大尻といえど、これに尻を挟まれたまま動くのは相当に困難なことであった。てゆーか無理であった。

なので大尻はさすがに焦った様子で、雨に濡れた子犬のような視線を小尻に投げた。小尻もまた焦った様子で大尻を見下ろすばかりであった。

 

「小尻よ。尻を蹴り上げてこのオブジェから私を飛び出させてくれ。今まで貴様をいじめてばかりで悪かった。今後そういったことは一切しないと約束するから頼む、私を助けてくれ。」

 

小尻は決意したように大尻の後ろへと回りこみ、妖怪尻挟み男の尻を挟むことに特化した部分に挟まれた大尻の大尻目がけて蹴りを入れたのである。しかしもともと非力な小尻。それと大尻の大尻を蹴り上げるなんて、そんなことしたらまたいじめられるのではないかという恐怖が相まって、本気で大尻の大尻を蹴れずにいた。

小尻の蹴りに大尻はぽすんと情けない音を立ててビクともしない。

 

「小尻、もっと思いっきり蹴ってくれ。動かぬ。動かぬぞこのままでは。」

 

どんどん火の手が迫ってくる。このままではふたりとも火に飲まれてしまう。焦る大尻。動けない小尻。

 

「どうした小尻、貴様、此の期に及んでまだ私の大尻を蹴りあげることをためろうておるのか。」

 

まったくその通りです。と小尻は思った。今まであなたたちが私のことを小尻のことをいじめてきたから、私は常にあなたたちの一挙一動に怯えて暮らしてきたのです。極力目をつけられないように行動する日々のなかで、私は何かに対し攻撃するということをもう忘れてしまいました。それを今更、ガキ大将である大尻の大尻を蹴り上げろだと?そんなの無理に決まってんだろ。こんな私にしたのは誰だよ。おまえらだろうが。尻の大きい小さいで人を決めつけてんじゃねぇよ。クソが。

 

「おい小尻よ!どうやら貴様、尻だけではなく、その穴まで小さいらしい。こんなアホな状況でうろたえているこの私の大尻さえも蹴れぬのだからな。貴様は外見はおろか、中身も小尻なのだ。貴様はこれからもずっあ痛あいっ!」

 

小尻は自分でも信じられないような力で大尻の大尻を蹴りあげた。大尻の大尻は少し動いたが、まだ抜けられそうにない。もう一発蹴る。

 

「あ痛あいっ!貴様、いつの間にそのようなちかあ痛あいっ!」

 

小尻の耳にもう大尻の言葉は入ってこなかった。ただ目の前にある大尻を蹴り上げる、ただ目の前にある悪の塊を蹴り上げる。室の温度は相当上がっていたが、小尻の身体はそれよりももっと熱くなっていた。

 

「あ痛あいっ!あ痛あいっ!あ痛あい!?なにこれ!?」

 

いつの間にかいつも大尻の大尻を餌と間違えて噛み付く野良犬のゴンノスケも隣に来て、大尻の大尻を餌と間違えて噛みついていた。しかも今回、大尻はオブジェに挟まって身動きが取れないので噛みたい放題だ。小尻が大尻を蹴りあげては、ゴンノスケが大尻に噛み付く。

がぶり。どすん。がぶり。どすん。

 

徐々にオブジェから抜けつつある大尻の大尻と、蹴ったり噛みつかれたりするたびに悲鳴をあげる大尻。

降り注ぐ火の粉と、肺が焼けつきそうな熱気のなかで、大尻の大尻を蹴り上げながら小尻は、永遠を感じていた。

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大尻と小尻とゴンノスケは、通報を受けて駆け付けた消防隊により無事に救出された。

消防隊が救助のために室へ駆け込んだ時、全員一酸化炭素中毒で意識を失っていた。大尻の大尻はオブジェから抜けており、その大尻には、噛みついたまま意識を失っているゴンノスケと、そして大尻の大尻の割れ目につま先を突き刺したまま意識を失っている小尻。

 

後日、退院してきた大尻の大尻は紫色のあざで埋め尽くされており、大尻は今、紫尻というあだ名でみなからバカにされ、肩身の狭い生活をしている。

小尻はその鉄脚が認められ、ムエタイの本場タイでコジリモンコン”サムライキック”シッサコーンマーチャイとして大活躍している。

 

尻の大きい小さいでその人が決まるワケではないのですよという、遠い遠い昔の、小さな村でのお話。コジリモンコンっていうのが面白いなと思ったお話。