大尻と小尻

 

大尻は自慢の大尻をぶるんとさせて、雄々しくぶるんと肩で風を切り尻(大尻)でも風を切りつつ天下の往来は我が尻の下にある、とか思いながら元気いっぱいでバイタリティ高めでガキ大将であった。

 

そんな大尻の唯一の悩みといえば、大尻の大尻が大きすぎて、稀に野良犬(通称ゴンノスケ)が大尻を獲物と勘違いしてガブリと噛み付いてしまうことがあるということであった。やっぱ噛み付かれた瞬間は「あ痛ぁいっ!」と叫んでしまうワケではあるが、大尻はそんな時も大尻らしさを失わず「おりゃ」と大尻を振りゴンノスケを吹っ飛ばすのであった。

それを除けば大尻はその地域においてもはや無敵であった。

 

小尻はといえば、常にオドオドしており小尻をぷりぷりさせており頼りなく、あまり目立つ存在ではなかったし、私服は基本的にお母さんがジャスコで買ってきたものを着用したりしており、同級生や先輩どころか、後輩からも「小尻くん、またケツぷりぷりさせてんの?しばいたるからこっちこいや!HAHAHA!!」とヨユーでバカにされているが特に言い返すことも出来ずにぷりぷりさせているのみという体たらくで、そして他に漏れず大尻もことあるごとに、ともすればイジメともとられかねないような熾烈な振る舞い(有無を言わせずに小尻を飛車角落ちにさせる等)を小尻に対して行ってしまいがちであった。

 

そんな対照的な大尻と小尻のふたりであったが、ある大きな事件をきっかけに、ふたりの関係性に大きな変化が現れたのである。

 

それは去年、もう秋と言っていい時期のことであった。

「掃除するのが死ぬほど面倒くさい部屋。しかも誰も使ってないし、これからも誰も使わない部屋。でも一人で全部掃除しないといけないという決まりです」室の掃除係にあたっていた大尻は掃除するのが面倒なので、小尻なら断らねぇだろということで、まだ弁当を食べ終わっていない小尻を無理矢理引き連れて上記の長い名前の室へ小尻とふたりで向かったのである。

 

小尻に室を掃除させつつ、大尻は室の隅に置かれた年季のいったソファーに腰掛けて、たまに「歯医者とかのBGMで優しいクラシックがかかってたりすると逆に怖いよな。」だの、「初対面のスキンヘッド同士って、出会って3分以内に頭を剃る時に使うカミソリはシック派かジレット派かって話題が出るらしいぞ。」だの、「もう良い加減に食べかけのパンを仕舞っておくためのケースを使うのはやめろ。パンぐらい一発で食え。そんなに頻繁に使用して、食べかけのパンを仕舞っておくためのケースが割れたらどうするんだ。」だの、くだらない話題を振りまき、小尻はそんな大尻に対して、少しオドオドしつつ「そだね。そだね。」と相槌を打つばかりであった。

室の掃除は日が沈むまでかかりそうであった。

 

「このソファー、この大尻の大尻をかくもがっちり支えるとは、ボロいわりに大したソファーだよな。」と言ったきり大尻は口を開かなくなった。小尻は小尻をぷりぷりとさせつつチラチラと大尻の方を見やるとどうだろう、大尻はスースーと寝息をかいて眠っていた。

 

大尻が目を覚ましたのは、小尻に激しく揺り起こされたからである。大尻は低血圧気味なため寝起きが悪い。それに加えて、せっかく夏の終わりの木漏れ日が差し込む室の中で心地よく眠っていたところを小尻みたいな尻の小さい、みなからバカにされてイジメられてばかりいる小尻の「起きて大尻!起きて!」と普段大声を出さない人間が無理やり大声を出している感じの声で起こされたのだから寝起きはいよいよもって悪く、大尻は小尻を殴り飛ばそうとおりやと上体を起こしたワケであるが、目の前に広がる光景を見て、そんな考えはどこかへ飛んで行ってしまい、「え、なにこれ。」みたいな目線を小尻に向けるのが精一杯であった。

 

大尻の困惑を察した小尻は、「大尻が眠ってしまったあとも、室の掃除を続けていた。掃除もいよいよラストフェーズに突入した時、それは突然起こった。なんと、室の隅に置かれてベタベタになていたノートPCが突如火を噴き、あっという間に延焼、このように室の中は火の海と化し、このままここへいたのでは我々二人は焼け死んでしまうので大尻くんを叩き起こし室の外へ逃げようとした次第である。」という趣旨のことを物凄い早口で大尻に説明し以上を諒解した大尻とともに室の出入り口を目指して猛然と走りだしたのであった。

 

雑然とした室の中で、すばしっこい小尻はぷりぷり障害物をいなして室の戸へ向かって驀地であるが、翻って動きがいちいちぶるんと大味な大尻はなかなかスムーズに進めていいなかった。

小尻は大尻の進み具合に合わせて「大尻、此方此方。」と大尻を誘導し、ふたりは何とか室の出入り口まで辿り着くことができた。が、その時であった。

 

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