ゲス野郎のお揃いリストバンド

 

"家族のぬくもり"とか、"信じ合う心"とか、"安らぎの場所"とか、そんなものにゲス野郎は騙されてない!

 

ゲス野郎は今日も皆でお揃いリストバンドで街へ in & out。刺すような日差しが刺してくる。暑い、暑い暑い。でも平気、というのはゲス野郎のお揃いリストバンドな。これな。こいつで汗を拭えばほら、プロヴァンス。お揃いリストバンドのおかげだよな!

 

いっつも身につけてるこのお揃いリストバンドだから、夏は日焼け跡にクッキリとお揃いリストバンドのシェイプが刻み込まれる。風呂に入っても消えない、嬉しい呪いだ。

 

このお揃いリストバンドを作ったのはいつのことだったか、あまり良く覚えてないな。何かこう、ゲス野郎のお揃いリストバンド的なものが欲しくて、よし、それならお揃いリストバンドを作って売ろう、一旗あげようと思ったんですよね確か。

 

そうと決めてからは怒涛の日々だったな。絶え間なく繰り返される口論、話の腰の折り合い、水の差し合い、チャチャの入れ合い、相づちの打ち合い、パーソナルスペースの侵し合い、特に喧々諤々やりあったのが、お揃いリストバンドに入れる刺繍のデザインについてのことで、ポップに「ゲス」にするか渋く「下衆」にするか、少しハイブロウに「guess」にするか、これに関しては殴り合い等あり、時に果たし合い、時に折衷案、時に根回し、時にフルート教室、時に絶好調、時に根掘り葉掘り、臥薪嘗胆面従腹背紆余曲折の末このお揃いリストバンドができたときの喜びのパーティーは、たぶん皆にとって一生忘れられないものになるかもね。宝石箱やー!思い出の。思い出の宝石箱やーん!

 

"人は絶対に裏切る。"

 

このお揃いリストバンドを身に付けている者は常にその想いを胸に、手首に、乳首に抱いて生きている。

裏切られたら裏切り返せ、つーか裏切られる前に裏切ってやれ。

しかし問題は"人は絶対に裏切る。"ということはこのお揃いリストバンドを身に付けている者に裏切られる可能性もある、というかほぼ確実に裏切られる、というのもこのお揃いリストバンド、リスバを身に付けている者は揃いも揃ってゲス野郎、学年イチのゲス、地域自慢のゲス、ブス、ブスでもあるので、そしてデブでもあるのでこれは裏切るよね。

 

共に汗水流し、時に拳を交えてお揃いのリスバを作った仲間とて、裏切る時は裏切るものなのだろうか。本当にそこまで、弩級のゲス野郎なんだろうか。

 

 

考えたら悲しくなってきて、右手首に付けたリスバを握りしめた夜。