ジェットに飛び出せ!飛び出す者ども!

 

飛び出せない性格な俺たちだから、ずっとこうして隅の方でうずくまりがちな俺たちだから、「でも、俺たちはこうだから。こういう感じでいいから。飛び出してる人たちは飛び出してる人たちで楽しそうだけど、ちょっとうらやましいなと思うけど、でもまあ飛び出してると飛び出してるなりに色々としんどいこととかもあるだろうし、とりあえず今はこんな感じでも満足してるんだ。」って感じで地面ばっかり見てる俺たちだから、地面の虫とか見てる俺たちだから、だけどなんとか飛び出したくて、年相応にハジけ飛び出したくて、特に誰と誰が付き合ってるわけではないけどいつも仲良く一緒にいる男女混成のグループとかに参加したくて、さらにはそのグループでどこへ行くか、なにをして遊ぶか、車は誰が出すのか、買い出しの予算はなんぼやとか、等を決めたるのはもちろん、計画を立てるとき、宅飲みをしているとき、バーベキューのとき、いつも話題の中心にいるのは俺、みたいな感じでその男女混成のグループの、誰が言ったわけではないけどリーダー的な、グループの女子が他のグループの男子にちょっかい出されて、嫌な思いして、みたいなときに特にその女子と誰が付き合ってるわけではないのに、みんなでそのちょっかい出してきた男子にナシをつけに行く、みたいなときも先頭を切って歩くみたいな、つーかナシつけに行こうって言い出すのがそもそも俺みたいな、そういうポジションの人間になりたくて、今年はひとつ飛び出してみようと思い立った俺たちで、俺たちはワイワイ(ただし飛び出している人たちのワイワイ具合には遠く及ばない)話し合った結果出た答えが「結局飛び出している人たちって小学校くらいからその頭角を現している場合がほとんどで、この齢になって急に飛び出せるかというとそれは簡単な話ではなく、例えば小学校のころに飛び出していたのはどういう人かと言うとそれは”足が速い人”であり、聞くとあまりにも悲しい答えが返ってきそうなのであえて聞かないけど俺たちはたぶん全員が全員”運動会では誰からも注目されず個人50m走なんかでひっそりとビリになっていた人間”だったと思うので、たしかにそんなやつが飛び出せるワケもないね。」という情けない答えとなりましたので今年も飛び出すのは無理な俺たちなのか。

 

でも一度「飛び出したい」と思った、思ってしまったからには「やっぱり俺たちは飛び出せないよね。」なんて考え直すのは、これは明らかに諦めであり、そういった諦めを繰り返して生きてきたが故に俺たちは未だに飛び出せずにいるというのは皮膚感覚的な、認めているのは”自分がなにかを諦めるときの感情”、ベッドに入ったあとで「あぁ、今日のあのとき、ああしていれば。」という後悔と、しかし明日もう一度同じような状況があったからといって今考えている「ああしていれば。」はたぶん出来ないという自分に対する異常にシビアで辛辣な評価と、なにかを諦めた夜のことも、次の朝には忘れてしまい再び同じような夜を過ごすまでこの感情を思い出さないという成長の無さ、等を解っておきながらまた「やっぱり俺たちは飛び出せないよね。」という諦めを自分に許そうとしている。

 

飛び出せない性格をしていると同じく飛び出せない性格の人間と一緒に過ごすことが多くなるが、まさしく俺たちがそうなのだが、これはそもそも消去法気味な自然発生的集団であって、決して「一緒にいると落ち着く。俺たちは仲間だ。こいつらと泣いて笑って、夥しい量の思い出とともに共に成長し、この一度きりのライフを隅から隅までずずずいと楽しもうぜ。」といったノリで集まったグループでは無いので絆のようなものは一切無いと言ってよく、それが証拠に俺たちはなかなか多くの時間をこうして一緒に過ごしているのにも関わらず「あの夏」「あの冬」「ディズニーランド」みたいな思い出がひとつもなく、唯一の俺たち全員の共通の思い出といえば去年の秋、コンビニの前で俺たちはおでんやチキンを食べていたのだけど、食べ終わってさあ行こうという段になってコンビニから出てきた明らかに不良である二人組に「なぁ、ちょっとだけ足らんねん。2円くれや。」と言われたので誰かが2円を渡したし当然返してもらっていない、というかなりうっすらしたカツアゲをされたね、という青春時代の思い出にしては甘さ酸っぱさほろ苦さ、熱い涙や歓喜のカラオケみたい要素が一切入っていないような取るに足らないにもほどがある思い出しかないし、しかもそのうっすらカツアゲをされて以来俺たちは急にあのコンビニへ寄らなくなったという情けない後日談まであり、あのコンビニの前を通るたびに俺たち全員は何故か黙るという余計な心理的駆け引きまでする始末である今現在だが、今日あのコンビニの前を通るとき、俺は言おうと思う。

 

「コンビニ寄ってかへん?なんかおでん食べたなってきた。」

 

 

それで他の飛び出せない俺たちがどういった反応をするのかは全く予想できないが、もしかしたらあのコンビニに寄ることで俺たちがなにか飛び出せるキッカケになるのではないかと俺は踏んでいる。あのコンビニ、うっすらカツアゲされて以来全く寄らなくなったあのコンビニ。あのコンビニの扉こそ、俺たちの飛び出しへの扉なのではないか。俺はそう考えている。ここは諦めたくないな。