
「ほなそのクリームケーキとはなんぞや!」
クリームケーキ先生の講演会は洋の東西を問わず大人気、満員札止めの連日ですので、今回このようにしてクリームケーキ先生の講演会に初めて参加出来たことに私は夢見心地で、参加者全員に配られたハート型のクリームケーキ、その名も”クリームケーキ先生謹製 ハートの型で焼いたハッピークリームケーキ”と温かいお紅茶を頂きつついよいよ佳境に入ってきた先生の熱弁に聞き惚れておりました。
そんな講演会のハイライトでクリームケーキ先生はこの一言を言ったのです。
「ほなそのクリームケーキとはなんぞや!」
これを聞いた瞬間私は激怒、修羅と化して机を両手でバングと叩き絶叫してしまいました。
「先生!クリームケーキ先生!あんた今語尾に”ぞや”って付けましたね。なんで”ぞや”なんて語尾を選んだんですか?あんた嘗めてるんですか?答えてくださいクリームケーキ先生!」
先生も、他の参加者も「ぽかん」という顔で私のことを見ておりました。しかし私は再度、押し殺したような声でもって先生に迫ります。
「答えてください、クリームケーキ先生。」
私には「引かぬと決めたら一歩も引かぬ」という母親譲りの向こう意気の強さがございます。「まけへんで」の精神で今日まで生き抜いてきております。先生もそんな私の強い意志を認めてくださったのか、ゆっくりとした口調で(しかしちょっとした威圧を込めて話していることを私はつぶさに感じてはおりましたが)再び話し始めたのです。
「ご婦人、とりあえず座っていただいて。ね。クリームケーキ先生が悪かったからですね。謝罪して訂正します。」
尊敬するクリームケーキ先生が襟を正してくださり、私もホッっと溜飲が下がった感じがいたしましたので再度そっとパイプ椅子に腰を下ろしました。そして再び講演会に平穏安穏が訪れたのもつかの間、クリームケーキ先生が次におっしゃった言葉は私はおろか講演会の参加者全員が耳を疑うようなこんな言葉でした。先生は息を大きく吸って言いました。
「ほなそのクリームケーキとはなんぞね!」
聞きました?私は再度激怒、先ほどよりも怒気を強め机を両手でバングと叩き実際これ「机割れてまえ…!」ぐらいの思いをこめて机を両手でバングと叩き先生に対して猛烈な抗議をしました。
「クリームケーキ先生!だから語尾なんだよ!語尾にそういった前時代的な、おそらく先生の先生なんかが使っていたような、”ぞや”とかさ、そういうのを今を生きている私たちがガワだけを、パッケージだけを使うみたいな、ソウルのこもってない猿真似みたいな、古き悪しき権威の猿真似みたいなのが俺は嫌で、それに対してさっき俺はこのクソみたいな机を両手でバングと、バングってのはアメコミとかでBANG!!とか書いてあるのをそのまま読んだ愚かな言い方で、あえてそう言うことで「ああ、こいつはBANG!!をバングとそのまま読むことで戦略的イノセントさを勝ち得ようと思っているのだな。この可愛らしいミスをまわりの人間に突っ込んでいただくことによって後輩感、末っ子感をその集団のなかで自己のポジションとしようとしているのだな。嘗めとるわ。殺す。」と初手から相手方に敵対意識を持っていただくことによって人付き合いの煩わしさから解放されるので言ってるんですがハイブロー過ぎるのか衆生に伝わりにくいのはまあここでは置いておくとして、猿真似の言葉遣いで”ぞや”とか語尾に付けるのはやめてほしい。あまつさえ”ぞね”ってなんやねん。ババアか貴様。」
とひとしきり抗議し終えるとクリームケーキ先生は、それまで会場全体にぼんやりとむけていた視線を明らかに私ひとりに向けて言いました。
「ほなそのクリームケーキとはなんぞっぞ!」
激怒。
「”ぞっぞ”てなんやの!そんなこと言うてうる人見たことありまえせんでしょう。語尾にちっちゃな”つ”が入るのは、スタッカートが入るのはおかしいだろ!漫画か貴様。」
「ほなそのクリームケーキとはなんじゃらほい!」
激怒。
「”じゃらほい”なんて言う人間に面白い人間はひとりもいない。これは偏見でもなんでもなく、まずこの”じゃらほい”みたいなこと言う大人たちのあの「そんなポップな言い方」みたいなあのちょっとニヒリスティックな、ふふんとした流し目を見て「あぁ、面白くない大人っているんだね」と幼少のころの私は思いました。」
「ほなそのクリームケーキとはなんぞ祭り!」
激怒。
「ほなそのクリームケーキとはなんぞのぞなん!」
激怒。
「ほなそのクリームケーキとはなんぞっくぱーてぃー!」
激怒。
「ほなそのクリームケーキとはなんぞパーク勤続20周年!」
激怒。
激怒。
激怒。
あまりに激怒に激怒を繰り返しすぎた私はこの講演会で一番楽しみにしていた「クリームケーキ先生の新春カラオケショー」は見ずに会場をあとにしました。会場を出ていく際に、背後からクリームケーキ先生の
「はあーあ!やっと邪魔者が消えたことですし、みなさんと思う存分クリームケーキについて語り合えますよ。語り合えますぞや!おい!また”ぞや”って言ったぞこの私は!私はぞや!また怒れよぞや!ほら!ぞや!」
という罵倒、とここはあえて言おうか、罵倒が聞こえてきましたが、私はもうこんなアホから学ぶことは何も無いと思っていたので、特に気にすることもなく帰りました。クリームケーキはおいしかったけど。