◯太▶︎▶︎梵◀︎◀︎陽◯

 

誤解を恐れずに、勇猛果敢に誤解を恐れずに言うなら、私のマイメン(ホーミー)の実家の壁は、ヤンキーによるスプレー缶での落書きの被害を受け、めちゃくちゃカラフルである。

 

実家がカラフルというのは、たとえば自分自身の実家であるなら、これはただごとではないと即座にホームセンター、ホムセンにおいて有機溶剤、つまりシンナーを購入しそして実家の壁全体にこれを塗りたくりて夜になるとアンパン中毒のヤンキーたちが「この壁からシンナーのにおいがすどぅど、吸ってけ吸ってけ。」なんて言って私の実家の壁に群がってくるのでしめたとばかりに窓から顔を出して「こらー!ヤンキーのアホー!落書きとか、やめてなー。やめてってゆーか、あんませんといてなー。」なんて一喝して撃退せしめるワケであるが、これがマイメン(ホーミー)の実家の話となると正直言ってちょっと面白い。いやかなり面白い。

 

しかしお互いがお互いにマブダチと認め合っているマイメン(ホーミー)の前でマイメン(ホーミー)の実家の壁のことを笑うのはフレンドシップに深刻な亀裂が走ると考えた私は、せめてものアレとしてマイメン(ホーミー)のいないところ、たとえば一人で部屋でゴロゴロしている時なんかにマイメン(ホーミー)の実家の壁のカラフル感を思い出しては爆笑していました。そしてその爆笑の赴くままに、壁の落書きをなるべく正確に思い出して画用紙に描く、色が足りなかったのでホムセンにクレヨンを買いに行く、の帰りにより絵のデティールをあげるためにマイメン(ホーミー)の実家に寄って壁を観察していると「ここの家のオカンはデブ!あとブス!そんなカラフルホーム」とすごく勢いのある、若い竹の如く勢いのある字で書いてあるのを発見し身悶える、自宅に帰ってまずその文字を壁の絵に描き入れ、の後についに完成したそのクオリティの高い壁の絵を眺めて一通り爆笑した後、突如虚無感に襲われた。

 

「マイメン(ホーミー)の実家の壁がカラフルだからといって笑う、だけならまだしもこうしてなかなかクオリティの高い絵、壁の絵、それって壁画?みたいなことを思ってそれをまた笑う、嘲笑するというのはマブだからとか以前に人として最低な私。」

 

そう思った私は「もうマイメン(ホーミー)の実家の壁のカラフル感を楽しみ、爆笑するのはやめよう。これまで陰ながら爆笑していたことを正直に打ち明け、そして壁の落書きをを一緒に消そう。まぁマイメン(ホーミー)は「消したい」なんて一言も言ってないけどあんなもん残しておいたら近所中からバカにされてしまうだろう。現にマブである私がすごくバカにしてる。それどころか絵まで描いてそれを見てまた笑っている。マイメン(ホーミー)も今更感があって言い出しにくくはなっている、というか落書きされた当初、私に見られたくなかったからだと思うんだけど私を家に近づけたがらなかった。ということはやっぱカラフルな実家の壁に対しちょっと恥じらいを感じている。そらそうだ、実家がカラフルだなんて私だったら絶対に嫌だ。だとすればみなまで言うな。一緒に落書きを消そう。それがマブってもんだ。そうだろ?」

 

ということで私は再度ホムセンへ「待ってなマイメン(ホーミー)ならチャリンコブッ飛ばしてオッケー!」と自転車を漕ぎ行きシンナーを購入、の後にマイメン(ホーミー)宅直行で、でもやっぱ件のカラフルな実家の壁を見て笑ってしまう。つーか100メートル先から見てもカラフルなもんはカラフルなワケで暮れなずむ街との絶望的なミスマッチ感がまた面白い。ダメだダメだ。私はマイメン(ホーミー)の幸せのために、そして円滑な社会生活のために壁の落書きを消すのだ。これは社会奉仕であり罪滅ぼしである。やります。

 

ということでマイメン(ホーミー)の実家の玄関の前に立ち、落書きされた壁のなかで窮屈そうに気まずそうにしているインターホンに指をかけた瞬間、神の声を聞いた。

「私はこの壁の写真を撮り、記録として残したい。あとあんま元気ない時とかに机から取り出し眺め、笑いたい。額装して部屋の目立つとこに飾りたい。」

気づくと私は自転車にまたがり、家までカメラを取りに疾走、転がるように玄関を抜け押し入れのなかを探す。何故にここまで私が急いでいるかという陽が暮れてしまっては壁の全景を仔細に残せない。特に壁のわりと隅の方に書かれた「ここの家のオカンはデブ!あとブス!そんなカラフルホーム」だけは死んでもフィルムに納めたい。

 

 

私の身体は今、パンクの初期衝動で動いている。冷静との爆笑のあいだで押し入れからカメラをピックアップした瞬間私は、壁の前でこれを構え、ファインダー越しに壁を見ることを想像して今一度爆笑した。落書きだらけの壁に向かってカメラを構える自分の姿をロングショットで想像してまた笑った。持て余したシンナーだが、蓋を開けて庭に置いておけば揮発して消えてなくなるだろう。しかし揮発したシンナーの匂いにヤンキーが群がってきて私の家の壁を落書きだらけにする可能性があるので物置に仕舞っておこう。早く行かないと。