
また仕事で大きなミスをしてしまった。仕事をしている限りミスというのはつきものだ。尤も、ミスった側がそれを言うのは違うというのは重々承知のうえなのだけれども。
普通、仕事でミスをすると同僚なんかが、
「まあそうクヨクヨしなさんなって。誰にだってミスすることはあるよ。ミスしない人間なんていないの。逆に言うとミスをするからこそ人間なのね。ということは、あなたはミスをした=人間ってことになるじゃない。ということは、人権があるということなので、よもや家畜のように殺されはしないということよね。これってこれから生きていくうえでかなりラッキーなことだと思うのよね。他人からむやみに殺されないなんて、それだけでかなり日常生活を送るうえでの安心感ってアガるわよね。ブチアゲよ。こちとらブチアゲよ。殺される心配が無いってだけで生物としてはだいぶフリーダムなので、ということでそんなにいつまでもクヨクヨしてないで、シャキっとして、午後からは明るく元気に前向きに、いつもの調子で行こうまい!あれだね、クヨクヨって文字にするとキモいね!」
なんて言って励ましたり慰めたり愛し合ったり喧嘩したり色んな壁ふたりで乗り越えたりするもんなんですが私の場合は違う。
なぜなら入社してからというもの、ミスをしなかった日が無いから。つーかミスしかしてないから。とにかく出勤から退勤までミスしかしないし、休日は休日で休日なのに出勤するというミスを毎回している。もうそれが趣味みたいになっている。それを笑って同僚に話すとドン引きされた。
今日も今日とて、朝いつものようにパソコンを起動させ、エクセルを開いて納品書を作ってはいたものの私のアタマのなかにはエクセルの関数が全く入ってないので全て数字ベタ打ちでやってるんですが(バレてないけど)、今朝はなにをどうキーを打ち間違えたのかパソコンの電源が急に落ちたかと思うと次の瞬間「プシュウ」と音がするやいなやパソコンが爆発したのだ。しかも私のパソコンだけならまだしも、机を挟んで向かいに座っているチャールズのパソコンまで爆発した。チャールズは爆発の衝撃で大きく東へ飛んで行き、大陸まですんでのところで太平洋へ墜落、の後にそのまま海の藻くずと化し、とうとう祖国の土は踏めずに。
チャールズの第一報を聞いたとき、まあこれを言うと言い訳みたいになるけど、なぜ私がちょっと笑って、というか吹き出してしまったかというと、これにはちゃんと理由があって、チャールズはご存知のとおり私の2万倍くらい仕事ができるのでありますが、ことあるごとにヤツはそれを鼻にかけて、机を挟んで向いに座る私に「やぁ。俺は午後にやるはずのタスクが午前であるこの時間、昼飯前のこの時間に全て終わったのよ。とりまランチはゆっくりとるとして、ビールなんかもこれは当然飲むとして、午後から何をしようかな。逆に何をしようかな。君はどう?タスクの方は。詰まっちゃってる感じ?逆に煮詰まってないと考えてみれば?」だの「俺はもう仕事が終わってる、つーかいつも通り午前のうちにその日のタスクは終わらせてるんだけども、そこへして更に別のタスクもこなす、上司への提案をするなどして今日もめまぐるしくビジネスしたので今日はもう帰ろうかなとか思ってるけど君はどう?まだ午前中に命じられたタスクやってる感じ?君はあれかい?ごっつ長生きする予定なのかい?そのペースでタスクってたら俺に与えられたタスクなんて化石になるまでこなせないよ!」だの「いつまでそんなに古いパソコンを使ってるんだい?それはなに?江戸時代のパソコン?平賀源内が作ったやつでしょ!絶対そうや!まあ俺のように高速演算を必要としない君だからどんなパソコンを使ってようが基本的には仕事に差し支えないのだけど、古すぎて急に爆発するとかはやめてくれよ。君の席のパソコンが爆発したら向かいに座っている俺のパソコンまで爆発して太平洋に飛んでっちゃって、クリスマスを待たずに里帰り、なんてことになったら笑えないからさ。HAHA!」といった小言を他の誰にも聞こえない、私にだけ聞こえるように何度も何度も言ってくるので、もし会社のビルがテロ組織に乗っ取られなどしたら、その混乱に乗じてコイツだけは殺してやろうと常に懐にバタフライナイフをガーターベルトに忍ばせていたのだけれど、それほど因縁浅からぬ相手が太平洋の塵となったとあれば、これは笑みのひとつもこぼれるのが人情というものであろう。
結局会社は私が起こした爆発事件の影響で一週間もの間、業務を停止することとなった。が、入社以来ミスしかしていない私は当然業務停止になっているオフィスに訪れるというミスをしてひとり、爆風で色んなものが落花狼藉、天井まで黒く焦げて未だきな臭い此処へ来てチャールズのデスクへ。
チャールズが好きだった食べ物をデスクへお供えして、いくら誤作動とはいえ、事故とはいえ、あんなチャールズみたいなもんを爆死せしめてしまったことへの供養にしようと思ったけど、あんなクソデブで性格も最悪なゴミクズの食べ物の好みなんて覚えておけるほど私の脳は柔らかくはないので、おそらくは童貞、それどころか女性の手を握ったこともないであろうまま海の藻くずと化したチャールズへのせめてもの餞として、爆発してしまってほとんど原型を留めていない彼の自慢のパソコンに、一度だけキスをして帰ったの。