
「我が家はみんなフルーティスト」
じいさんばあさん父母長男長女次女。といった役割でキャスティングされたであろう老若男女が並んでみんな満面の笑み。ただ、尋常なる家族写真とは少し違っていて、その少しの違いにすごく違和感があって、なぜならその写真の老若男女全員はみな一様にフルートを構えているというのが我々の知る家族写真との最大の違いであり違和感の原因であり、普通は家族写真の撮影においていわゆる持ち道具みたいなものは持たないのであって、持ったとしても一輪の花、数珠、なのにこの写真の家族はみなフルートを構えてニコニコと笑っていることに対してすごく違和感を感じるのはこれは当然のこととして、じゃあなぜそんなフルートを構えた家族写真がある程度の規模のこんな駅に掲げてあるのかと考えてみるがそんなことは考えるまでもなく右下に電話番号とともに書いてあった「不破フルート教室」。フルート教室の広告でした。
駅に高々と掲げてあるこの広告を通勤のサラリーマンが見て
「おっ、フルート教室ですね。そういやウチのアホみたいな家族にはみな一様に全く趣味と呼べるものがないし、まあ私自身も無趣味なのでここはひとつ家族全員で週末はフルート、この広告のように「我が家はみんなフルーティスト」みたいなことになればこの広告のように家族はみな笑顔、幸せな老後が待ち構えていることは明らかなので家族みなで入会いたします。いま”入会”と打とうと思ったらkをタッチできてなくて”乳愛”と変換されてしまいましたがこの乳愛という響きがかえって私のことを安心させてくれた。というのは、母からの初めての”愛”である”乳”、すなわち”乳愛”ということでこれは入会=乳愛、母の愛ということでフルート教室に入会することで、ただそれだけで母の愛を思い出せるならこんなに安いものはないということは明らかなので家族みなで入会乳愛いたします。」
と感じ入って入会しようとなった場合これは奇跡で、そこまで想像力豊かな脳みそのくにゃくにゃのパァに字が読めるとは思えないので、ラリってますので、ほなったらこの広告は一体誰が誰に向けた広告やねんこらボケカス、おちょくっとったらどつき回すぞ。と広告に向かって朝から怒鳴り散らしていましたところ背後から
「ほなったら「食器を洗った後のスポンジをそのままほっとくとスポンジのなかで菌が、悪い菌がドンドコドンドコ繁殖します。それってちょっとナーバスなのでこの食器用洗剤を使いましょう。何故なら使い終わった後のスポンジの菌の繁殖を防ぎますから。」とか言うてるコマーシャル・フィルムがあるけどあれはどやねん。使い終わったあとのスポンジで菌が繁殖してることなんて、おまえらに言われな知らんかったやんけ。気にせずに生きてこれたやんけ。それをおまえらがそんなことを、ごっつ汚いみたいなことを言い始めるから気になってきたよ。今まで別に特に腹も壊さずに生きてこれたのに。」
と声をかけられたので振り返ってみるとひとりのおっさんが立っておられました。少しく揺れながら。
だので「おっさん、それはいわゆる不安広告と呼ばれるやつで、たいして売りの無い商品をどうしても売らなあかんときにコピーライターが必死で無い知恵を振り絞って、海外のロゴとかをパクって、身内同士で”輝けどアホ!年間コピーライティング賞!”とかいった寒いコンペを開催した結果やっぱその商品自体が優れていなかったのでこれはどうしようもないということで、かくなる上は常套手段、これはもういたずらに民衆の不安を煽って、でもこの商品にはその不安を打開する力があるんえ、あるかもしれんえ、という方向で売っていこう、そうしよう。となった結果そんな知りたくもない情報がコピーとしてデカデカとのってます。すんません。」と応えたところ、
「なるほど。ほなおまえにおかれましてはそういった不安を煽るコピーの書かれた商品は大して優れてないということがわかってる、バレてるということやな。これはアッパレやね。最近の若者にしてはようできてるわ。よっしゃ、こうなりゃ宴や。おっさん得意のフルートでも聴いてんか。」といってフルートを吹き出したので、初対面のおっさんにいきなり「おまえ」呼ばわりされたことがムカついたので、おっさんのフルートケース、「不破フルート教室」とプリントされているフルートケースを蹴り飛ばして駅から明日へダッシュ。