
ムチャクチャに暇であった。世間は師走で大忙しなのに。
なのでこんな釣り堀なんかに来て、寒空の下糸を垂らしているわけです。背後から急に声をかけられた。
「釣れますか?」
いやいやいやいや、ここ釣り堀!「釣れますか?」は港とか河原で釣りをしてる人に聞くやつ!釣り堀なので店のマスターのおっさんがこの池に自ら魚を放ってるんです。そしてその魚にあまり餌をやらずにお腹を空かさせておいて客が投げる餌に喰いつきやすくしてる。なのでどんなけスカタンでも糸さえ垂らせばたいがいは釣れるんですよ。釣り堀とはそういう施設です。という想い、祈り、願いを込めて応えました。
「いや、なんか釣れないっす。」
そう。釣れてないの。なんで?なんで釣り堀なのに釣れないの?もう20分はこうして糸を垂らし続けてるのにいっかな釣れない。もうちょっと飽きてきてるよね。寒いし。つーかもう応えたんだからどっか行けよおまえ。いつまで俺の背後で突っ立ってんだよおっかねーな。なんか突き落とされでもするんじゃないかなと思って、それはヤだなと思って、ミニミニパイプ椅子に腰掛けた体にグッと踏ん張りをきかせておりますと背後の男はまたもや私に対して質問をしてきました。
「なんで釣れないのに釣り堀にいるんですか?」
知らねぇよ。俺も今日まさか釣り堀に来るとは思ってなかったよね。暇だけど家でゴロゴロしてても、なんか生きてる時間をどんどこ無駄にしていってるような気分になりましたので街をフラフラと歩いてたら「あれ?こんなとこに釣り堀なんかあったっけ?」と思ってなんとなく入っただけ。と言いたいところだけども見ず知らずのあんたにこんな詳しい説明をするつもりはないのでしません。釣れないのは、なんでなんですかね。それは店のマスターのおっさんに聞かないとわからないです。という想い、祈り、願いを込めて応えました。
「いやまぁなんとなくっすね。もう帰りますけど。」
背後の男は、ほぉ、か、へぇ、かなんか行って全然その場を動かない。てゆーか俺は今日が釣り初体験な為よくわからないんだけど、「釣れますか?」って聞いて「釣れてないです」って応えたら「じゃあ君はなんで釣りしてんの?」って詰められるもんなんですね。怖。次からはあらかじめ買っておいた魚をバケツに入れるなりなんなりしよ。そうしよ。てゆーか早くどっか行ってくれよ背後の男。俺はもう帰りたい。帰りたいけどいま席(ミニミニパイプ椅子)を立ったら背後の男に話しかけられたせいで席を立った、帰ったと背後の男は思うだろう。そう思った背後の男は「あぁ、自分のせいで釣りを楽しむ人を家路へとつかせてしまった。ウザかったかな。やっぱ「なんで釣れないのに釣り堀にいるんですか?」って詰めたのがマズかったかな。なんであんなこと初対面の彼に訊いてしまったのだろう。もっとライトに訊けばよかった。申し訳ない。でも僕を申し訳ない気分にさせたことに関してはムカつくので去って行く彼の背にキック!池に落ちろボケ!」という具合に錯乱する可能性がマジ卍なので帰れぬ。どうしたらええのですか。その時、背後の男が重々しい調子でこう言った。
「俺は二十年後のおまえだ。」
なに。この男が、二十年後の、俺・・・。
俺は今まで背越しで話していた体勢をゆっくりと男のほうに向け、貌を見上げた。
そこには微妙に薄汚い男が立っていた。唖然とする俺に男が言った。
「でもそれは嘘だ。」
なんだよ。嘘かよ。もう帰ろ。