
お母さんごめん。今日はお母さんに謝らないといけないことがあるの。謝罪文なの。謝罪でもないか。お願い的な。なにかこう宣言というか、とうとう見つけちゃった出会ってしまったあの日あの時あの瞬間、霞みがかってよく見えなかった将来、未来、夢と希望がモリモリとはっきり見えて、気持ちがスッと穏やかな気持ちになってわたしは爆笑しました。その時頬を伝っていた涙は、笑いすぎて苦しい、息ができていない、息ができてないということはもうじき死ぬ、死ぬのは悲しいといった類の涙だけではありません。歓喜。そう、歓喜の涙もこれは間違い無く混ざってたわ。
お母さん、わたし気づいたの。わたしってほら、勉強できない運動できない可愛くないモテない(まぁ今日も男子と喋ったけど)、なんの取り柄もなくただ若い、ただセブンティーンなだけのハイティーンなだけの女子じゃない。でもね、このあいだ駅前で弾きだかりをしているお姉さんを見て思ったの。
「あ、わたしには歌うことしかできないな。」って。
泣いたわ。わたしには歌があった。泣いたわ。わたしには歌うことがすべて。ようやく気付いたの。
中学のときに音楽の授業でアコースティックギターを弾いたんだけどその時も思ったわ。うん、いま思い出した。その時も「あれ、わたしには歌うことしかできないのかな。」って。「な。」って。思ったなって。わかったんじゃない、思い出したんだ。という歌の文句があるけど、あれってこういった気持ちのことを云うのだと思いました。
でもね、中学の授業のときはただギターを弾いただけだった。それもアルパイン?アルマイン?みたいな(※注 アルペジオ)、なんか銀色の弦じゃなくてビニールみたいな弦を指で一本ずつ弾くやつ。それをやったの。歌ってなかったの。でもまぁその時も銀色の弦をなんかデカイ付け爪みたいなやつ、プラッチックの、あのぺらぺらのやつでジャーンってやりたいなとは薄々思っていたわ。そしてもちろん歌いたい、わたしには歌うことしかできない。ということも思っていたわ。
お母さん、わたしね、大学には行かないでおこうと思っているの。わたしは歌いたい。ギターを弾いて歌いたい。駅前で見たあのお姉さんみたいにわたしも路上で弾きだかりがしたい。そして道行く疲れた人々にわたしの歌声を届けたい。わたしは歌うことでしか誰かに何かを届けられないから。わたしには歌うことしかできないから。だから塾はちょっともう今月で辞めて、銀色の弦のギターを買うためにバイトをしようと思っています。でもわたしの学校はバイトするには親の許可オッケー的な書類を出さないといけないの。なのでお母さんの名前を書いて判を押して明日学校に持っていきたいのでよろしくお願いします。
P.S
わたしの夢
お母さん、わたしが弾きだかりをして人気が出て紅白に出場して日本中にわたしの歌声を届ける時、紅白のステージの上からお母さんにだけ秘密のサインを送ります。それは感謝のサインです。だってお母さんのおかげでわたしは歌うことができるから。わたしには歌うことしかできないから。お母さんに感謝しています。なのでバイトの紙はよろしくお願いします!