
ペガサス。私の息子。
「♪便所よ便所よ兵隊さんに戻れ~」
今日もペガサスは快活に明朗闊達に歌い哭く。私が貴様を産んだ53年前、まだ産まれたての貴様はこの世に歌というものがあるということすら知らなかった。それが今はどうだ。少しの隙を見つけては歌をうたう。ニヤけながら歩く。屁で空を飛ぶ。などのことをしやがって。貴様は一体、いつどこで壊れたのだ。
「♪便所よ便所よ兵隊さんに戻れ~」(さっきよりも朗らかに)
貴様は覚えていないだろう。貴様がまだ3歳だった頃、寒い冬の晩。夜半過ぎ、急に熱を出した貴様を病院まで連れて行ったことがあった。降り続いていた雨は雪に変わり、私は貴様に雪がかからぬよう大事に胸に抱えて病院までの道を歩いた。
今でも思い出す。貴様を産んで初めて感じた「この子が死ぬかもしれぬ。」。
貴様がいなければ、私など存在しうる価値などない。当時まだ貴様がまだ幼かったあの頃、私がいなければ決して生きていかれなかったあの頃、私は本気でそう信じていた。雪の降る街を、私は貴様を抱え泣きながら歩いた。
「♪便所よ便所 羊になれ~」(少しおさえて、囁きかけるように)
私は覚えている。貴様を産み育てたすべての日々のことを。かつて愛した者との間にできた、貴様という結晶のすべてを。
「♪羊になれ~」(大海原の気持ちを想像して。しないで。)
だから私は望む。貴様が現在(IMA)のように壊れてしまう前の貴様にもどることを。
「♪便所 便所ぉ」(雪のように。アスファルトの上の雪。)
もう一度貴様を、私の胎の中へ戻し
「♪羊ぃ~になれ~」(もう歌が終わるよという気持ちで)
もう一度貴様を、産み落とし
「便所ぉー!(泣) 兵隊さんにもどれーーー!!!(号泣)」
もう一度貴様を、産湯に浸けることを。
便所◯-☆-天馬-☆-◯所便