
ダメ王子はわかっていた。自分がダメ王子と呼ばれていることを。民衆はもちろん両親から何の期待もされていないということを。ダメ王子はみんなからダメであると思われていることに対して、ちょっとムッとしてはいたが、だからと言ってどうすればダメじゃなくなるかを考えなかった。そこがダメ王子のダメたる所以であった。
ダメ王子は自分がダメ王子であると言われていることに対して、こんなコメントを残している。
「そんなにぃ……ダメなのかね、朕は。どこがダメかね。朕的にはこれでもよくやってると思ってるのだよ。いや、たしかに朕もイマイチその民衆のハート?掴めてないのかなって、そういう雰囲気は多少?感じてるのだよ。でもさぁ、それは身分が違うからねそもそも。育ってきた環境が違うとやっぱコアな部分の違いはどうしようもなかったりするではないか。「民衆の年収、朕の2秒」みたいなことを言うてしもうたこともたしかにあったからさ。でも朕的にはあれもジョークのつもりで言ったのだよ。ちょっとタイミングが悪かったのと言いかたが下手だったこともあって周りはドン引きであったが、あれは朕なりの民衆とのコミュニケーションの一環というか、そういう親しみやすさを出すことによって「あぁ、あの王子はダメ王子だがジョークを通じて我々民衆とコミュニケーションをとろうとしてくださる素敵な王子様なんだな。」なんて思ってもらえるのかなって。まぁそんなことを説明してる時点でなんにも成立してないのではあるが。まぁなんつーか、あんまり朕の耳に入るかたちでダメ王子とか言わないでほしいっていうのはあるのだ。」
もうこのダメっぷりである。
そんなダメ王子がある日「となりの国のバカ王子と決闘をする。」と言い出した。本人的には地の底に落ちた民衆からの支持を取り戻すためになんかこう蛮勇を見せつけようみたいな浅はかな狙いがあったのだと思う。まわりの家来たちはもちろんダメ王子の勇み足を止めた。しかしダメ王子はダメなので周りの意見に耳を貸すことなどなく隣の国のバカ王子に果し状を送りつけた。
いよいよ決闘の日、ダメ王子は国中の民衆を闘技場に集めバカ王子が到着するのを待った。民衆たちは仕事にも行けずしょーもない決闘を見させられるということで超イライラしていた。朝から闘技場に集められ、もう夕方であった。しかし、いつまで経ってもバカ王子は闘技場に姿を見せない。それもそのはず、バカ王子はバカなので果し状の字が読めなかったのである。早馬がその事実を闘技場に集まった人々に伝えた瞬間、民衆からはえげつないブーイングが起こった。普通は丸くなってるハズのお年寄りまでダメ王子に対してハッキリと「死ねー!」と叫んでいた。
ダメ王子が怒れる民衆に向かって「ちょっとまって朕的には」と叫んだ瞬間誰かが投げた石が頭にぶつかった。ダメ王子は「これダメッ」とうっすら呟き、そのまま絶命した。ダメ王子、45歳の春であった。