陸のふたり

 

男なら、陸にいろ。海も行け。

ふたりを育てた育ての親、親の教えであった。

その教えを忠実に守り、ふたりはいつも陸にいた。夏は海にも行った。でも基本的には陸にいた。男たるもの陸にいてなんぼという思いが、ふたりを陸にいさせたのだ。海にも行った。

ふたりになつく犬がいた。

とても可愛らしい犬であった。ふたりの姿を見かけるとかけ寄ってきてピョンピョン跳ねたりするのであった。ふたりは犬が大好きであった。猫も好きであった。

ふたりは犬に「オスくん」と名付けた。

その犬にチンコがついていたのでオスだなぁということと、鳴き声が「オスくんっ!」と聞こえる夜もあったことからオスくんと名付けた。ふたりが「オースーくっ!」と呼ぶと、オスくんはとても嬉しそうにシッポを振るのであった。

オスくんは野良犬だったけれど、毎日ふたりの家にきてゴハンをもらっていた。オスくんはふたりのくれるゴハンが大好きだったし、ふたりもオスくんにゴハンをあげるのが大好きであった。趣味を書く欄に「オスくんにゴハンをあげるときのこと」としばしば書くのであった。「釣りに行くときのこと」とも書くのであった。

ゴハンをあげるのはやはり陸においてであった。

海だとゴハンが散らばるし、魚がそのゴハンを自分のものと勘違いして食べてしまうためオスくんの分が無くなるし、オスくんは泳ぎが苦手であることを自らの信条としていたため、ゴハンは陸であげるということで落ち着いたのであった。

ふたりはよく「これだけは言いたいんです。これだけ聞いて帰ってください。早く帰ってください。聞いたらすぐに。すぐに帰ってほしいんです。それは大丈夫ですかね。約束していただけますかね。」とオスくんに触れ回っていた。しかしふたりはその「これだけは言いたい」ことをオスくんに一切言わなかったため、オスくんはその場でシッポを振ったり、クンクンしたり、気が向いたら散歩に行ったりして悠々自適に過ごしていたのであった。

 

ふたりとオスくんは、今日も程よい距離感を保つのであった。